今年も「黄金色のトンネル」がきれいだ。北大キャンパス内のイチョウ並木。一気に色づき、見頃となっている。日が暮れるのが早い。晩秋を迎えている。
秋の夜長。8月末で政府・分科会が廃止され、新型コロナウイルス対策から「卒業」した尾身茂さんの著書「1100日間の葛藤」(日経BP)を読んだ。
日本の感染対策を事実上、陣頭指揮した尾身さんが、初めて書いた手記。コロナ禍の3年間で、専門家が政府に出した提言は100以上に上る。正解のない中での勉強会、試行錯誤、史上初の無観客五輪…。安倍、菅、岸田3政権と向き合った裏舞台がつづられる。「この3年超は葛藤の連続であった」と振り返り、「私がなるべく心掛けたことといえば、葛藤を『避ける』ことではなく、葛藤を『突き詰める』ことであった」と書く。
日本で最初に感染が拡大した北海道。尾身さんの手記を読み、最前線の道庁で深夜まで取材に忙殺された日々を思い浮かべた。初めて聞く言葉ばかりで、読者にどう伝えるか。記者側も「葛藤」の連続であったような気がする。「5類」に変わり、道の感染対策も「有事」から「平時」に移行。全数把握がなくなり、重症や死者の発表も消えた。感染の実態は、より深く潜行し続けている。(広)