ばっちゃん

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  • 2023年10月21日

  介護や家事を担う子どもが今「ヤングケアラー」と呼ばれ問題点も含めてありようが注目されている。父方の祖母は全盲。本家で嫁や孫と暮らしていた。祖母がわが家に遊びに来る時、何度か手を引いていた。いろんなことを思い出す。

   いとこがやって来て「ばっちゃんが来たいって」と母に告げると、仕事の始まりだ。祖母の左手を握って本家を出発し間もなく長い坂道を下り、畑の縁の細い踏み付け道を1キロ近く、祖母が道を踏み外さないように手を引く。難所は沢水の流れる水路。祖母は目が見えていた頃に流れていた水量を覚えているのか、いつもヨイショッと力強く越えた。無事に渡り切ると小休止。祖母はいつも、胸から小さな布袋を引っ張り出して10円玉を2~3個、握らせてくれた。別にいいのにと思った。小学校に入学して、仕事は徐々に減っていった。道すがら何を話したのかはもう忘れたが半世紀以上が過ぎても祖母の笑顔や笑い声、話し方、大きな手の温かさを思い出せるのは介助のまねごとを経験できたからかもしれない。

   自分は脚が自在に動かない病気になった。転ぶ危険がある時などに、家族らが手を貸してくれる。介助への不満を言いそうになると、ばっちゃんがのみ込んでくれた不満が、遠くから聞こえる。(水)

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