2度目のイスラエル

  • 土曜の窓, 特集
  • 2023年10月21日

  11月9日から実に25年ぶりにイスラエルを訪問する(予定だった)。フライトはドバイ経由テルアビブ行きEK933便。昨夜エミレーツ航空からテルアビブ発着の全便を26日まで運休するとの通知が来た。恐らくそれで収まらないだろう。運休スケジュールは日を追うごとに後ろ倒しとなり、私のフライトも”滑り込み(?)アウト”が不可避な情勢だ。

   カーボンナノチューブの先端テックを持つテルアビブのパートナーと再会を果たしたかったのだが、ビジネスだけならリモートでも代用できる。年をまたぐ前の”滑り込み”を狙ったのは他に理由があった。イランだ。核開発の疑惑が強まるイランは9月半ば、IAEA(国際原子力機関)の査察をとうとう拒否してしまった。情報筋の間では、イランのウラン濃縮度が90%を超え、早ければ年内にも核保有か、という観測が漂い始めている。

   イスラエルはハリネズミ国家だ。ミサイルを周辺海域に何発も打たれようが「遺憾」とだけコメントするどこかの国とは根っこから異なる。敵に核保有を許す前にリスクを冒しても先制空爆で核開発施設をたたく。そうなれば、イスラエルは早晩、紛争当事国となり、当分の間、訪問はお預け。アタマの中は「今でしょ!」となったわけだ。

   しかし、事実は小説より奇なり。現実に起こったのは、イランの息のかかったテロ組織ハマスによるイスラエルへの3000発に及ぶ大規模なロケット砲撃、そしてガザの壁を内側からブルドーザーで突破し、4000人が集まる音楽祭を急襲して250人もの人質を取るという卑劣極まりない行為だった。

   実は、今年9月の国連総会の一般討論で、イスラエルのネタニヤフ首相は、パレスチナを排除し、サウジアラビアやUAE(アラブ首長国連邦)などの金満アラブ国家と「新中東」を築く構想について酔いしれるように語った。で、このざまである。ハマスは(ヒズボラも)テロ組織であり、パレスチナ人の利益代表ではないが、パレスチナ問題という名の亡霊が、中東にまん延する平和ボケに対し、鉄ついを食らわせたかのようだ。

   一定以上の世代にとってパレスチナの象徴はPLO(パレスチナ解放機構)のアラファト議長だと思う。国連担当だった記者時代、1993年のオスロ合意を受けて、ニューヨークの国連本部を毎年訪れるようになったアラファト議長は記者たちの人気者だった。ミーハーな私はなるべく議長に近い席を確保して臨んだが、内容は何ひとつ思い出せない。「写真のイメージと違って背が低いな~」とか、「顔が金魚に似ているな~」とか、浮かぶのはそんなことばかり。

   98年に記者を辞め、帰国の途中にヨルダンのアンマンから当時6歳の息子の手を引っ張りながら、ヨルダン川西岸から陸路でエルサレム入りしたのが最初のイスラエル訪問である。「国境」は機関銃を持つ兵士であふれかえっていたが、ノーベル平和賞に輝いたラビン首相とアラファト議長が文字通り命を懸けてもぎ取った中東和平の恩恵としか言いようがない。あれから25年。31歳になった息子は副社長となり、サウジのリヤドで陣頭指揮を執る。

  (會澤高圧コンクリート社長)

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