第3部 2 タンク火災の現場で指揮を執った細川延昌さん 「早く消えろ」祈りながら 全員無事が一番の成果

「経験を語り継いでいかなければ」と細川さん
「経験を語り継いでいかなければ」と細川さん
苫小牧を黒い煙で覆ったタンク火災=2003年9月
苫小牧を黒い煙で覆ったタンク火災=2003年9月

  2003年9月の十勝沖地震に起因する2度のタンク火災は、苫小牧市消防本部の消防長を務めた細川延昌さん(77)にとっても、長い消防士人生で忘れられない出来事となった。

   同26日早朝の原油タンク火災は、隊員たちの奮闘のかいあって、7時間ほどで何とか収めることができたが、強い違和感を覚えたという。苫小牧は震度5弱で「なぜこの程度の揺れで、こんなことが起きるのか」と気持ちは晴れなかった。

   2日後の28日、嫌な予感が的中した。日曜の在宅中、消防本部の部下から電話が入り「今タンク火災が発生しました。(庁舎の窓から)火が見えます」。2度目のタンク火災。すぐに自宅を飛び出し、本部そして現場へと急行した。

   大きく長い揺れの長周期地震動により、タンクに液面揺動(スロッシング現象)が生じ、浮き屋根が振動して破損や沈下につながったとみられる。

   同日未明以降、市民からのガス臭の問い合わせが多数寄せられ、「臭いがするということは、タンク内の油が空気に触れている状態」。臭いの元は粗製ガソリンとも呼ばれるナフサ。強い引火性と消火しにくい特徴を併せ持つ厄介者だ。

   細川さんは現場の指揮所テントに詰め、車両や人員の配置、二次災害を防ぐため近隣タンクの油を別タンクに移す「タンクシフト」の状況把握などに追われた。最高責任者ながら何度も火災タンク近くに足を運び、隊員らの無事はもちろん「早く消えろ」と祈りながら消火作業を見守った。

   火元のタンク周辺はスロッシングでこぼれた油が飛び散り、「別タンクに火が移りでもしたら、もう消防は機能できない」。フル稼働を続ける消防車など各種消火器材に限界が近づき、冷却放水していた製油所構内のポンプが止まると瞬く間にタンクの座屈も始まるなど、厳しい状況の中で44時間にわたる格闘の末、30日午前6時55分に鎮火した。屈折はしご車のバスケットに乗り、真っ黒くなったタンク内をのぞき、火の手がなくなったことを確認。「終わった」。心の中でそっとつぶやいた。

   28日に出動してから、ようやく帰路に就いたのは、3日後のことだった。それでもタンク火災に関する業務は山積みで、全国から駆け付けてくれた応援部隊の帰還など、めどが立ったのは12月中旬だった。

   細川さんは「消防隊員や出光所員、消火活動に当たった関係者全員が無事だったことが一番の成果」と強調しつつ、「(事故や火災は)製油所が存在する限り絶対起こらないとは言えない」ときっぱり。法令改正や消火機材の充実など、当時よりも体制は強化されているが「あの日の経験を語り継いでいかなければ」と訴える。

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