泣きやまない子どもをどうするか―若い母親が困り果てていると、車内放送。「お母さんが子育てを頑張っています。優しく見守ってあげてください」。何かで読んだ、バスの運転手さんの機転の話を思い出すと、鼻の奥が熱くなる。迷惑だ。うるさい。そんな視線や声が母親にどれほどつらいか。放送後、車内には舌打ちもため息も聞こえなかった。「頑張って」。笑顔に見送られた母親は何度も会釈しながらバスを降りて行った―。
身近でもそんな話があった。苫小牧市内のスーパーでのこと。乳児を抱いたお母さんとショッピングカートを押した幼児の3人がレジに到着した。買い物籠をレジ台に置いたお母さんは、幼児がカートを押して店の中を動き回らないよう、レジの前の通路を体でふさぐように立った。それが気に入らなかったのか幼児が泣き出し声がどんどん大きくなる―。
周囲には混み合う時間を避けて午後の早めに買い物に来た高齢のお母さんが多かった。「手伝ってあげる方法は?」と目で相談し、知恵袋を開くが、つらい体験は思い出しても妙案は浮かばない。3人がレジを通過する頃、周囲に見守り、見送るという大仕事をしたおばあちゃんたちの安堵(あんど)の笑顔が広がったようだ。めでたし、めでたし―。(水)