北日本の石油エネルギー製造、供給を担い続けてきた北海道製油所。国が掲げる2050年のカーボンニュートラル(CN、温室効果ガスの排出ゼロ)達成に向け、新たな挑戦が求めらている。石油をはじめとする化石燃料は、CN実現の目の敵にされる二酸化炭素(CO2)の排出源だからだ。近年の脱炭素化に向けた急速な動きに、山岸孝司所長は「われわれのなりわいは一見すると、脱炭素と矛盾した位置にいる」と冷静に受け止めつつ、「出光は常にエネルギーを安定供給することで社会に貢献してきた」ときっぱり。CN社会の到来でも変わらず、地元に貢献し続ける決意がほとばしる。
製油所構内の緑化や汚染対策など、半世紀にわたって自然環境と向き合ってきたマインドがある。脱炭素の取り組みにも積極的で、隣で日本CCS調査(東京)が実施した国内初の大規模プロジェクト、CO2を分離、回収、貯留する技術「CCS」実証事業に協力してきた。両社を結ぶパイプラインで、製油所の水素製造設備から発生するCO2を含んだオフガスを提供した。
実証事業では16年4月から19年11月にわたって、苫小牧沖の海底下1000~1200メートルの地層で、CO2の30万トン貯留に成功。「この財産を生かさない手はない」(山岸所長)と出光興産(東京)は今年1月、石油資源開発(同)、北海道電力(札幌市)と共に、CCSにCO2の有効利用「U」を加えたCCUSの事業化を目指すと表明。30年度までに苫小牧市やその周辺で実現しようと共同検討を進める。
7月にはエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)から、先進的CCS事業の実施に係る調査業務を受託。30年までにCO2貯留量年150万トンを目標に定める。設備の概要や費用の概算などを今年度中にまとめる予定で、山岸所長は「来年度以降の本格的な設備建設に向けたステージに入りたい」と意気込む。
もう一つの柱は合成燃料の製造だ。CO2と水素を組み合わせて精製する、石油代替燃料と目される次世代エネルギー。北海道は寒さや広大な土地柄もあり、液体燃料の需要はすぐに減らないと見通す。実現には膨大な再生可能エネルギーやCN水素が必要だが、製油所では再エネ候補の一つとして風力に着目。昨年12月から総合運動公園内に、高さ約60メートルの風速観測塔を設置し、風速や風向きなどモニタリング調査を始めた。
エネルギーの供給拠点として、「転換」への準備を着々と進めており、山岸所長は「世の中が求める新たなエネルギーを製造し、供給するのは当然の流れ」と強調。道のりは決して平坦ではないが「常に人類は挑戦しながら豊かな世の中を勝ち取ってきた。将来のCNエネルギー安定供給が次のミッション。(同社中期経営計画で掲げる)30年ビジョン『責任ある変革者』としての使命」と語気を強める。(終わり)
(この企画は報道部・北畠授が担当しました)