40年ほど前、平取町二風谷の萱野茂さん宅をしばしば訪ねて、アイヌのことやシャモ(和人)のことを教えていただいた。子どもの頃に見たという和人の学者のアイヌ研究の様子も何度か聞いた。
数人でやって来た学者らが、集まったおばあちゃんたちの「研究」をしたそうだ。いろりの周りに座るおばあちゃんたちの顔や頭に物差しや巻き尺を当てる不思議な光景だったという。どんな手続きで研究が受け入れられ、行われたのか、子どもは知らない。それでも目の前で行われている作業の異様さは分かる。「生きている人間の体のあちこちに物差しを当てるんだよ!」。萱野さんの声が、怒りで裏返しになったのを覚えている。
生きた人間だけでなく死者を対象にした研究も行われた。往時、アイヌには仏教徒のようにお墓参りをする習慣がなかった。死者は死後の世界で現世と同じように生きていると考えられ昔話も残っている。しかし墓標が朽ち、供物のない墓は無縁墓とみられ、掘られたようだ。
白老の民族共生象徴空間(ウポポイ)の慰霊施設には各地の大学が保管していた千数百体分の遺骨が安置されている。恵庭アイヌ協会が返還を求めた9体が来週、故郷に帰るそうだ。国交省の発表とか。古老たちの長い旅が終わる。(水)