出光興産北海道製油所では操業開始から50周年の節目を機に、日本初という最新鋭の消火車両を導入した。毎分1万5000リットルの放水が可能で、石油コンビナートなど大規模危険物災害に備える。大型化学消防車、大型高所放水車、泡原液搬送車の通称「3点セット」などの充実を図る中、自治体や近隣事業所も体制の強化が続いている。
苫小牧市消防本部には大型放水砲搭載ホース延長車、大容量送水ポンプ車からなる「ドラゴンハイパー・コマンドユニット」がある。2011年の東日本大震災の被災地で相次ぎ発生した石油コンビナート火災を受け、国が全国12地域に配備した。ホース延長車は、総延長1キロ、15センチ大口径のホースを積み、最大放水量は毎分8000リットル。一般的な消防車両に比べて消火能力は約3倍を誇る。ポンプ車は海や川など多様な水源から給水し、送水は1キロ先まで可能だ。
03年9月の十勝沖地震による製油所タンク火災を経験した消防本部の三戸英充次長は「火災が起きたタンクへの冷却放水などで大きく貢献できる」と強調する。新開町の消防本部敷地内で定期的に操作訓練を行い、石油コンビナート事業者と協力しながら現地で放水訓練も随時展開。19年4月には夕張市の石炭博物館模擬坑道火災に初出動し、ホース延長車が6日間にわたって送水した実績もある。
ソフト面についても、三戸次長は当時を「全国から応援に駆け付けていただいたが、部隊配置や活動指示、宿泊のあっせんなどさまざまな部分で苦労した」と振り返る。未曽有の大規模な石油コンビナート火災を糧にしながら対策を進化させ、マニュアルの見直しや受け入れ基盤の整備につなげた。
さらに記憶の伝承にも力を注ぐ。再雇用を含めた消防職員249人のうち、当時を知るのは4割を切った。新人研修などを通して当時の活動を紹介し、若手隊員らの意識醸成を図っており、消防本部の小玉修次長は「日々の点検、予防への呼び掛けも大切。出光はもちろん関係事業者と協力し、まず火災を起こさない状況を整えたい」と話す。
出光と北海道地区広域共同防災組織を形成する北海道石油共同備蓄北海道事業所(静川)も、05年の石油コンビナート等災害防止法改正に伴い、大容量泡放射システムを配備した。01年6月に米国で起きた直径82メートルのタンク全面火災を、約1時間で消火した毎分4万5000リットルの泡放射システムを超える、同5万リットルの放射能力を備える。出光の火災タンク直径は42メートルで、同事業所企画総務課の山崎博樹さん(60)は「いざというときに動かないことがないよう、24時間いつでも火災現場に運び出せる体制」と気を引き締める。
苫小牧東部国家石油備蓄基地を管理する苫東石油備蓄苫小牧事業所(同)も年2回、共備と行う共同訓練などを通じて防災意識を高める。消防庁が主催する自衛防災の技術を競う技能コンテストでは計3度の奨励賞を受賞し、若林英輝総務課長は「われわれの仕事は道民や国民の暮らしに関わる。防災技術を常に高めていくことが必要」と力を込める。