製薬大手エーザイと米バイオジェンが共同開発した認知症・アルツハイマー病の新しい治療薬「レカネマブ(商品名レケンビ)」が厚労省の製造販売承認を得られる見通しとなった。認知症の原因物質を除去する、初めての治療薬の誕生が近い。先月の新聞報道の大きさを見ればこの薬の完成を待ち続けた患者や家族、医療関係者の期待の大きさが分かる。
佐藤眞一著「認知症の人の心の中はどうなっているのか?」(光文社新書)は患者の心を思うと読み進めるのがつらい本だ。物忘れが目立ち始めた頃の「また忘れた?」という家族の言葉が、認知症の診断の後は変わるそうだ。責めない代わりに一々確認される。「このこと覚えてる?」。介護の疲れが加われば声が大きくなったりもするか。「特別な人」として扱われる苦しみの日々始まりだ。
読者から「痴呆症という言葉を使わないでください」という抗議を受けた経緯をこの欄に書いたことがある。国が「認知症」への病名変更を検討した頃だから20年ほど前のこと。本紙にその言葉が載った。点検の不足を謝罪したが、震える声で「痴呆症という言葉を使わないで」と繰り返して電話は切れた。患者が味わった悲しみを考えたい。あす21日は認知症の日。新薬の効果に期待したい。(水)