第3部 4 厚真町 犬飼 正規さん 寄り添い合い育む絆 災害公営住宅で「コミュニティー再生」

  • 特集, 胆振東部地震から5年 今を伝える
  • 2023年9月19日
バーベキューを楽しむのぞみ団地の住民と犬飼さん(左)

  「俺はただのくそじじいだ」―。厚真町新町の災害公営住宅「のぞみ団地」に住む犬飼正規さん(69)は自身のことを、そう語る。2018年9月に起きた胆振東部地震で住んでいた自宅が全壊し、避難所生活や表町の応急仮設住宅で2年ほど過ごした後、今の住まいに移った。仮設住宅に入居していた当時から、住民の悩みや愚痴を聞くなど世話役を買ってきた。そんな中で「俺は生かされている」と感じている。

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   新町の災害公営住宅は3棟20戸が整備され、当初は自宅が被災した町民を対象にしていたが、今では震災後に厚真町へ移住してきた住民も居住する。独居の高齢者から農家、子育て世代など幅広い顔ぶれだが、ここではいい意味で「壁」がない。

   犬飼さんの自宅には連日のように、近隣の住民たちが代わる代わる訪れる。この一年ほどは同団地で雨漏りが多発し、犬飼さんの下にもいろんな声が寄せられるようになり、その声を矢面に立って行政や関係者に届けている。

   話しやすい人柄も手伝って、訪れる人は被災を共有した人や同年代に限らない。「これどうぞ」と差し入れを届けてくれる人もいる。ある時にはかわいらしくおめかしをした近所の小さな女の子が「お祭り、行ってくるね」とやって来て、犬飼さんも「おー、かわいいね。楽しんでおいで」と目を細めながら右手を挙げて応じた。一人でパークゴルフの練習をしていると、クラブを持って対戦を求めてくる人もいる。

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   残暑の厳しかった今月10日、のぞみ団地の住民有志でバーベキューを企画した。20人ほどが団地のあずまやに集まり、焼き鳥やジンギスカン、ちゃんちゃん焼きを囲んで、ビールを片手に満喫する光景が広がった。

   まだ幼い子どもたちも頭から水をかぶってはしゃぎ、その様子をほほ笑みながら見守る男性が「みんなわが子のようなもの」と口を開いた。すると別の一人が「じゃー、自分にとっては孫だな」―。話は尽きることなく、住民が手作りした漬物やつくだ煮、家庭菜園で育てたスイカを持ち込み、うたげは続いた。

   震災に遭い、度重なる住まいの転居を強いられ、20年以降は新型コロナウイルス感染症の流行と災禍に見舞われ続けた被災地。関係者がともに共通の課題と口をそろえるのは「コミュニティー再生」。原点がここにはあった。

   それぞれに不安や悩み、葛藤を抱えながら生きており、それらの内容すべてを共有するのは簡単ではないが、犬飼さんは「甘えていいの。困った時はお互いさまだから」と強調する。真の復興へ、一人一人が手を取り合い、寄り添いながら、この先も確かな歩みを続けていく。(終わり)

   (この企画は胆振東部支局・石川鉄也、報道部・陣内旭が担当しました)

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