世の中には何年も、時には何十年も会ったことのない、顔も忘れたおじさんやおばさんなどの続き柄の親類がいるものだ。何かのきっかけで親兄弟と疎遠になり、音信が途絶えた人たち。東京など大都市の中高層住宅には今、こうした人たちの残した「遺品部屋」が増えているという。独り暮らしで亡くなり、相続人はいない。遺品や家具、衣類がそのまま放置された部屋の、もの悲しい別名だ。
先日のテレビで、遺品部屋と格闘する管理組合の役員や入居者の苦労、負担の大きさが紹介されていた。地方でも戸建て住宅の空き家の増加が自治体や地域の大きな問題とされて久しい。雑草や庭木の枝の伸び具合などで周囲から事態の緊急度の想像がつく戸建て住宅と違い、鉄筋コンクリート造りのマンションは内部が見えず、遠目には小ぎれいでも奥深くの傷み具合、補修に掛かる膨大な費用や他の入居者の負担までは、見えない。
地方は、過疎や少子化の進展を指摘されながらも長い間、大都市に労働力や学生を送り出し続けてきた。しかし、もう補充役を務められない水準まで疲弊が進んだといわれる。遺品部屋は、そんな時代の到来を示す象徴ともいえそうだ。
もし郵便受けに知らない弁護士事務所や自治体から郵便物が届いたら―。(水)