第3部 2 安平町 鳥實 裕弥さん スポーツの力で復興を このまちが好き、役に立ちたい 移住を決意

  • 特集, 胆振東部地震から5年 今を伝える
  • 2023年9月15日
子どもたちと体を動かす鳥實さん(右)

  「自分に何ができるかを問い続けた5年間だった」―。安平町の総合型地域スポーツクラブ「NPO法人アビースポーツクラブ」のクラブマネジャー、鳥實(とりみ)裕弥さん(29)は神妙な面持ちで語る。胆振東部地震の道外ボランティアとして活動し、そのまま安平に移り住んで町の復興に尽くしてきた。

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   鳥實さんは佐賀県出身。地元の高校を卒業後、福岡県のクラブサッカーチームでコーチを務めていた。胆振東部地震が発生した2018年、自身の知見を広げようと日本縦断の旅を思い立った。出発は9月5日。翌日、山口県の駐車場で、震災を知った。旅の中止も頭をよぎったが、不思議な縁を感じてボランティア参加を決断。ヒッチハイクで旅を続行し、およそ2週間後に安平町を訪れた。

   地割れでぐちゃぐちゃになった地面や崩れた家、足の踏み場もない中でガラスの破片を拾うおばあさんら、被災地の現実に衝撃を受けた。子どもの遊び場を提供するボランティアから始めたが、サッカーをしても一切笑わない小学生の男の子と向き合った。地震の恐怖やストレスの影響を目の当たりにし、心のケアの重要性を痛感した。

   一方、ボランティア活動を通して、町民から「ありがとう」「家が片付いたら遊びにおいで」と声を掛けてもらうに連れて、町のことがどんどんと好きになった。「この人たちと何か一緒にやりたい。役に立ちたい」との思いが募り、そのまま安平で活動することを決めた。

   18年11月に災害ボランティアのメンバーらが中心となり、一般社団法人安平町復興ボランティアセンター(現ENTRANCE=エントランス)を立ち上げた。飲食店を飲み歩いて町を元気にする企画「ハシゴ酒」や、JR追分駅前の空き店舗を利用したコミュニティスペース「ENTRANCE」の開設にも関わってきた。

   19年1月に発足した同スポーツクラブにも当初から参加。同4月に安平町へと正式に移住し、同9月からクラブの運営に携わるようになった。鳥實さんははやきた子ども園で園児を送り迎えするバスの運転手をしながら活動しており、「以前は子どもたちも警戒し、声を掛けてもらえなかったが、今は積極的にコミュニケーションを取ってくれる」と変化を実感する。

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   子どもらへのサッカー指導をはじめ、誰もが楽しめるスポーツイベントを企画し、地域住民との交流に力を入れる。新型コロナウイルス禍で活動が中止する時期もあったが、サッカーのトレーニング動画配信をはじめ、保護者や指導者も対象にした「スポーツサミット」を新たに展開してきた。

   鳥實さんは「安平町はスポーツが盛んな環境を残そうとする文化がある。地域住民がやりたいことを実現できる環境を守っていきたい」と力を込める。スポーツの力と地域住民のつながりを信じ、さらなる町の発展へ一役を担う。

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