幼いスズメの死 命の尊さ伝えることの再認識

  • 救護室のカルテ, 特集
  • 2023年9月15日
搬入時のスズメの幼鳥

  先日、1羽の瀕死(ひんし)のスズメ(スズメ目スズメ科)がウトナイ湖野生鳥獣保護センターに搬入されました。スズメといえば、私たちの身近な環境に生息し、誰でもその名を知る認知度の高い野鳥です。北海道から沖縄まで日本全土に生息しており、全体的に茶色系の羽毛で、頬やくちばしや喉の黒色が特徴的です。今回搬入されたスズメは、くちばしの基部が黄色であること、頬の黒さが薄いことなどから、この夏に生まれたばかりの幼鳥であることがすぐに分かりました。しかし、羽毛はボサボサで体全体がひどく汚れていました。

   当センターに搬入された時には、すでに息が絶え絶えだったスズメの幼鳥。診察のためにそっと体を持ち上げると、体中からパラパラと砂がこぼれ落ちました。羽毛の隙間にたくさんの砂が入り込んでいたのです。経緯を聞くと、保護直前、水や砂をかけられていたそうです。そして、それを行っていたのは、なんと小学生くらいの子どもだったというのです。その現場を見ていた別の子どもが教えてくれたそうです。信じ難いその事実を受け止めつつも手当てを施しましたが、間もなくスズメは息を引き取りました。

   このスズメの直接的な死因が、子どもが行ったことによるものかどうかは不明です。体重も平均より下回っていたので、何らかの理由で親鳥から離れてしまい、しばらく餌を食べることができずにすでに弱っていたのかもしれません。ですが、いずれせよ、水や砂をかけるなど、生命を脅かすような行為は決して許されることではありません。

   当センターでは数年前にも、子どもによる投石で大けがを負ったマガモを保護したことがあります。

   なぜ、このようなことが起きてしまうのでしょうか。その背景の一つには、私たちの生活が物質的に豊かで便利なものになりましたが、その半面、自然や野生動物たちを身近に感じる機会が減ってしまったことがあるように思います。

   通信機器を使えば、壮大な大自然の写真や映像、情報が簡単に検索できる時代ではありますが、やはり、私たちの身近な環境にも自然は存在し、野生動物たちの営みがあることを体感できることが、生命を尊ぶ基盤になるように思います。未来を担う子どもたちに、そういった機会が得られるよう、私たち大人も働き掛けなければいけないと、切実に感じた出来事でした。

  (ウトナイ湖野生鳥獣保護センター・山田智子獣医師)

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