苫小牧市民参加演劇(1) 鈴木(すずき)龍也(たつや)

  • ゆのみ, 特集
  • 2023年9月9日

  2018年冬、仕事中に1本の電話があった。電話のあるじは群’73のメンバーの永井孝佳さんで、電話は「鳥嶋清嗣郎さんが市民参加演劇の演出を引退するに当たり、鈴木を演出にと名前を出している」との内容だった。

   正直驚いた。市民参加演劇は鳥嶋さんが中心となり、群’73が長年携わっていた企画であり、群にほとんど関わっていなかった自分としては、長年共に携わっていた群の方たちが引き継ぐものと思っていたからだ。動揺という言葉がその時の気持ちに一番近い言葉かもしれない。

   鳥嶋さんとの接点は決して多くはなく、芝居を見に行っては辛辣(しんらつ)なアンケートを書き殴ったこともあった。でも、市内の演劇人を一挙に集めたスタジオプロデュース公演では、スタジオに足を運んでくれた。自分は無意識に、作品を通して真っ向からいろんなものを鳥嶋さんへ投げ掛けていた気もする。鳥嶋さんが何十年と抱えていた市民参加演劇を託すというのは、苫小牧市の演劇シーンの未来を考えてのことだったのか。

   実は、二人きりの時に鳥嶋さんと話したことがある。鳥嶋さんの残したものの中には、良い面と悪い面の両方が顕在化し、自身もそれを承知して運営していたという。なので、僕は正直に言った。自分は、この先の自分たちや若い世代のために、自分らしくやらせてもらい、壊すところは壊し、新しい市民参加演劇をつくりますね、と。鳥嶋さんは「大変だぞ」と言いながらも、いたずらっ子のようにニヤリとした。

  (舞台演出美術家・苫小牧)

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