高齢期の睡眠障害を改善することは、認知症予防につながります。アルツハイマー型認知症予防に最も適した睡眠時間は6時間半~7時間と言われています。この睡眠時間を確保し、良い睡眠を取るための対策について解説します。
まず睡眠の仕組みを知りましょう。人間は、身体内部の温度である深部体温が低下したときに眠気を感じます。従って良い睡眠のためには、寝る前に上手に深部体温を下げる必要があります。
寝る前に入浴や運動をすると、一時的に深部体温が上昇し、その後急速に低下するため、強い眠気を感じてぐっすり眠れます。ただし、運動は就寝直前は避けましょう。また、電気毛布をずっとつけておくと、深部体温が下がらず眠りにくくなります。
深部体温の低下をもたらすのは、睡眠ホルモンであるメラトニンです。高齢者では、脳からのメラトニンの分泌が低下するため、眠りは浅くなります。日の光の当たらない生活環境もメラトニン分泌を低下させ、不眠の原因となります。
メラトニン分泌を増やすために、昼間、日光を浴びることが大切です。また眠る前にテレビやスマホの強い光を見ると、メラトニンの分泌を抑えてしまうため避けるべきです。
カフェインを含むお茶やアルコールの摂取は、就寝の数時間前までにしておきましょう。飲酒は眠くなるものの、睡眠の質が悪化し、利尿作用と相まって中途覚醒を起こします。寝酒はお勧めできません。
高齢者では、不眠のために睡眠導入剤を内服する人が増えます。睡眠導入剤が認知機能に及ぼす影響については結論が出ていませんが、副作用の少ない種類のものを選んで最低限の内服にとどめるとよいと思います。
これまでお伝えしてきたように、認知症には科学的根拠を伴う対策があります。適切に予防を行っていただきたいと思います。
(下畑享良・岐阜大教授、イラストはスギウラフミアキ)
_おわり_