第1部 5 新博物館 地域の起爆剤に まちなか再生と連動―むかわ町穂別地域

  • 特集, 胆振東部地震から5年 今を伝える
  • 2023年8月30日
まちなか再生の起爆剤として期待される新博物館の整備=むかわ町穂別地区

  「カムイサウルス・ジャポニクス(通称むかわ竜)を軸に、恐竜を中心にした施設と考えている。実物を展示できるのは新しい博物館しかない」―。今月28日にむかわ町内で行われた集会。穂別地区で進める穂別博物館と周辺一帯、同地区市街地のまちなか再生を図る「復興拠点施設等整備事業」に関する意見交換の場で穂別博物館の桜井和彦館長が町民の質問に答えた。

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   むかわ町は現在、2018年9月の胆振東部地震で被災した穂別地区のまちなか再生と連動させながら、新たな博物館の整備に乗り出している。すでに示した基本設計に基づきながら、恐竜研究の第一人者でもある北海道大学総合博物館副館長の小林快次教授をリーダーとした魅力化推進会議をこの春から10回ほど開催。肉付けを行っている。

   新博物館については、既存の博物館で収容できなかった全長8メートルほどのむかわ竜の全身骨格を置き、他の恐竜の展示物も充実させたい考え。周辺一帯を観光の拠点として、年間3万5000人の入場を期待。既存の公衆浴場「ほべつの湯」を移転改築した温浴施設やカフェ、車中泊やフリーサイトに対応したキャンプ場を周りに配備する。

   また、市街地には交流施設を置き、農産物を販売する多目的スペースや子どもが遊べるコーナー、待合所を設け、地域コミュニティーや利便性の向上など、地域課題を解決する場所にする構想だ。

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   新たな博物館の建設案は、胆振東部地震の発災前からあったが、震災により状況が一変した。自宅や店舗などが大きな被害を受け、住まいや鵡川、穂別両地区のまちなか再生が優先課題となった。加えて新型コロナウイルス感染症が流行し、博物館再整備の議論は先延ばしになっていた。

   しかし、時は待ってくれることなく、地域の活気を奪っていった。とりわけ穂別地区の街並みを見ると、旅館は地震の影響で建物が使えなくなり廃業。地球体験館は震災翌年の19年3月に閉館し、現在解体工事が進む。22年1月にはスーパーマーケットとして住民の買い物を支えてきたAコープほべつ店がシャッターを下ろした。さらに2年後には穂別高校の生徒募集停止の時期が迫る。

   ここ数年、転入者が転出者を上回る「社会増」になっているむかわ町だが、穂別地区に限ると22年(1~12月)は9人減、今年は7月末現在39人減と厳しい状態が続いている。博物館の再整備と穂別地区のまちなか再生の両輪を狙った一大事業は、地域の起爆剤として大きな期待を担っている。

   穂別住民の有志らによる「新博物館を考える町民会議」代表の中澤十四三さん(66)は「全国、世界に発信し、一人が何度も足を運ぶような博物館にしてほしい」と希望を語る。一人でも多くの人が博物館建設に関心を持ち、にぎわいを取り戻すことができるか、注目される。

 (終わり)

   ※この企画は胆振東部支局・石川鉄也、報道部・陣内旭が担当しました。

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