港の歴史と海の生き物(下)開港時の「生き証人」

  • 特集, 苫小牧市美術博物館
  • 2023年8月26日
田中元市長が入船式で使用したハンマー、苫小牧市美術博物館蔵

  日本初の本格的な内陸掘り込み式人造港である苫小牧港(西港)は、北海道で産出した石炭を本州の工業地帯へと積み出す港として、1963(昭和38)年4月に開港した。同月24日には、室蘭港から回航した第三北星丸(3016トン)と東京港から直航した光輝丸(1998トン)の2隻が、港に整備された石炭岸壁に横付けし、第1船入港を果たした。

   翌日の入港式は大勢の関係者や市民が見守る中、船首から船尾までたくさんの旗で装飾された第三北星丸と光輝丸が石炭岸壁の第1号、第2号バース(船が停泊し荷役を行う場所)にそれぞれ接岸した。式典では田中正太郎苫小牧市長と上戸斌司(たけし)北海道開発庁開発局長が代表し、石炭ローダー(石炭を船に積み込むための機械)にくくり付けられたくす玉を割ると花吹雪が舞い、ファンファーレが鳴り響き、600個の風船が両船から放たれた。船は石炭を満載し、夕方に京浜地域へと無事出港した。苫小牧港の門出の様子は新聞だけでなくテレビでも取り上げられた。

   今回展示しているハンマーは、入船式で田中元市長がくす玉を割った際に使用したものである。10年前に当館で開催した開港50周年記念の展示会を契機に、田中元市長のご遺族から寄贈された。

   石炭積出港から始まり、工業港や流通港として姿を変えながら今もなお進化し続ける苫小牧港。この資料はその原点を知る貴重な「生き証人」である。

  (苫小牧市美術博物館学芸員 佐藤麻莉)

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