「いざという時に、ゼロから始めるか、一から始めるかでは、大きく違う」―。今月7日、むかわ町役場に併設する産業会館で開いた会議で、竹中喜之町長が集まった研究機関の関係者、町職員らに向けて結束を呼び掛けた。むかわ町は海と山に囲まれ、何かと自然災害を受けやすく、「防災先導のまちづくり」を推進している。次への備えは待ったなしだ。
× ×
むかわ町は道内で初となる「事前復興計画」を2025年3月末までに策定しようと、動きを本格化させている。会議は道内の大学や工業高等専門学校、研究機関から専門家を迎えて初開催した。
道立総合研究機構建築研究本部(旭川市)の石井旭博士は、胆振東部地震前の18年8月に8285人いた町の人口が震災以降、今年7月末までに820人減ったことに言及。「復興期の人口流出をいかに食い止めるかが大事。災害の発生直後に必要な『住む』『暮らす』『働く』の機能を迅速に回復させることが求められる」と指摘した。
町は昨年改定した津波ハザードマップを基に、自治会・町内会での住民説明を行ってきたが、発災後の方向性などは示していなかった。策定中の同計画では発災後の復興プロセスやイメージまでを明示する方針で、町情報防災対策室の梅津晶室長は「これまでの各種計画は町民を交えてつくってきた。なるべく多くの町民の意見を聞ける方法を考えたい」と構想を語る。胆振東部地震の被災から5年が経過し、震災後に採用された職員も増えており、「職員の勉強の機会にもしていければ」と期待する。
× ×
日本海溝・千島海溝沿いで想定される巨大地震による津波では、むかわ町の他、近隣の苫小牧市や厚真町、白老町でも甚大な被害が懸念される。厚真町も今年5月、大学教授や町内で津波浸水区域に該当する自治会の会長、関係機関、専門家らでつくる「厚真町津波防災地域づくり推進協議会」を発足。今年度中に「津波防災地域づくり推進計画」を策定させる。
浜厚真や鹿沼など海岸沿い区域の住民らとは、懇談会を通して意見を集約し、今月には浜厚真の現地を視察した。サーフィンの利用者も多いことから、津波避難施設を整備する考えを打ち出した。平時は防災教育や啓発施設として役立てることで、同協議会副会長の室蘭工業大学の有村幹治教授は「防災だけではなく、地域振興やまちづくりにもつながる」と強調する。
沿岸部に位置しない安平町でも、避難所となる公共施設の充実化、整備を進める取り組みが動き出した。全国各地で相次いでいる自然災害。5年前に多大な被害を受けた胆振東部3町では、いつ起きるか分からない次なる災害へ備えるべく、多くの人が知恵を振り絞っている。