今滞在中のフィリピンは、この10年ほどで大きく変貌している。
首都のマニラだけでも何百という和食レストランがいたる地区、いたる通りでにぎわっている。かつて客の圧倒的大多数が日本人に限られていた。ところが今、大衆クラスの和食レストランだと、客層の7割から8割が、時に9割が現地の人たちのようだ。それも若いサラリーマンやOL、さらに比較的豊かな学生たちで占められている。
若いといえば、十数年前までは首都の街中で見かける20代、30代の男性の7割から8割が、素足に質素すぎる、いかにも安っぽいサンダルばきだった。ところが今ではそんなファッションの若者は、街角に立ってざっと見回したところ、3割もいない。
それもこれも、フィリピンの高度経済成長のなせるわざだろう。かつて”ASEANの病人”とまでいわれたこの国が、このところアジアで最も成長率の高い国になっているのだ。
その昔、フィリピンの警官といえば、ギャングまがいとまでいわれ、世界で一番たちが悪いとされていた。警官の一部は外国人、特に人がよくて、あまり抵抗しない日本人をターゲットにしていた。ゆすり、たかりに始まり、詐欺まがい、誘拐、時に最悪のケースでは殺人にまで手を染めていたようだ。
だが、最近のフィリピンではそんな悪徳警官はめったに見かけなくなっている。
元大統領のドゥテルテ氏は、犯罪や、特に麻薬、そして汚職、不正は断じて許さない、とかねてより豪語していた。その証拠にミンダナオ島のダバオ市長の時代にはとんでもない強権を発動して、裁判にかけることなく、3桁に近い犯罪者を撃ち殺したと自慢している。さらに市長だった彼は、私設の武装集団を使って、4桁にも及ぶ犯罪者を次々と処刑したともいわれている。
そんな人物が国家のトップに君臨するようになり、現在のボンボン・マルコス大統領は、ドゥテルテ氏の厳しすぎるともいわれる治安対策や政治姿勢を引き継ぐと公言している。
好景気とあってフィリピンはこの先ますます変貌していくのだろう。だが国際社会は、マルコス氏の取り巻き連中が権威と威厳に欠ける大統領を操縦して、政治をあらぬ方向に誘導するのはないかと案じている。アジアで勢いづくフィリピンから目が離せない。
★メモ 厚真町生まれ。苫小牧工業高等専門学校、慶應義塾大学卒。小説、随筆などで活躍中。「樹海旅団」など著書多数。「ナンミン・ロード」は映画化、「トウキョウ・バグ」は大藪春彦賞の最終候補。浅野温子主演の舞台「悪戦」では原作を書き、苫高専時代の同期生で脚本家・演出家の水谷龍二とコラボした。