「なぜかこうして5年も続いた。振り返ると、よくやったなと思う」―。厚真町内で町民向けに体操教室を開講する本郷地区在住の高橋康夫さん(72)が笑みをこぼす。
暑さの厳しい今夏、厚真町総合福祉センターの和室に、地域の高齢者ら20人ほどが集まり、手や足を動かしながら体操を楽しむ光景が広がる。1時間半ほど、椅子に座って背筋を伸ばしたり、肩を回したりと体をほぐし、手遊びやゴムチューブを使った筋力トレーニングなどでじわりと汗をかき、「きよしのズンドコ節」の音楽に合わせた踊りで締めくくる。幌内地区の住民もオンラインで参加し、休憩中はお茶を飲みながら、画面越しに参加者の会話が弾む。
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体操教室は2018年9月に発生した胆振東部地震をきっかけに始めた。高橋さんらが応急仮設住宅に出向き、談話室に集まった町民を対象に定期的に開いてきた。被災した町民同士のつながりが生まれたが、時間の経過とともに一人、また一人と自宅の修復を終えたり、新たな住まいが決まったりし、仮設住宅を後にしていった。関係者はせっかくの縁が切れることを危惧していた。
そんな中で高橋さんは、町内ですべての住民が応急仮設住宅を退去した20年11月以降、体操教室の活動を自ら代表を務める有志団体「あつまっぷる」で引き継いだ。仮設住宅の中で生まれたつながりを大事にしながら「いつどうなるか分からない。特に一人暮らしの人には声を掛けてあげて」と輪を広げた。新型コロナウイルス感染拡大による中断もあったが、人が人を呼んで今に至っており、毎週水曜日の午前中に行うスタイルが確立した。
本郷地区の湯浅悦子さん(81)は「家に引きこもっていたら歩けなくなった」と、この春から参加している。約4カ月間、ほぼ休むことなく足を運び、「おかげさんでまた歩けるようになった。昼間は家で一人になるし、本当に助かります」と大喜び。高橋さんは「皆さんが参加してくれることが後押しになって、気が付いたらやめられなくなっていた」と照れくさそうに笑顔で応える。
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胆振東部地震や新型コロナウイルス感染拡大による活動自粛を強いられてきた中、厚真、安平、むかわ3町の共通課題となっていたのは、住民の心のケアとコミュニティーの形成だ。3町では現在、社会福祉協議会や住民有志による教室やサロンなど「支え合い」の取り組みが、コロナ禍の制限解除とともに本格化している。小さなまちだからこそ、孤立する人をつくらず、お互い気遣うことがない関係づくりの構築が求められる。住民同士が手を取り合い、復興の道のりを歩んでいく。
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2018年9月6日に発生した胆振東部地震から間もなく5年を迎える。甚大な被害と心の傷を負いながら、着実に復興の歩みを進めてきた厚真、安平、むかわの3町の今とこれからの課題を取り上げる。(全5回)