岸田文雄首相は22日午前、東京電力福島第1原発にたまる処理水に関する関係閣僚会議で、気象条件などの支障がなければ24日に海洋放出を始めると表明した。放射性物質のトリチウムを含む処理水放出に対し、地元漁業関係者らの風評被害への不安は根強いが、「一定の理解を得た」と判断した。中国の猛反発は必至で、日本の水産物輸出への影響も懸念される。
政府はこれまで、今年の「夏ごろ」に放出を始める方針を示してきた。福島県沖で9月1日に底引き網漁が再開されるため、その前に放出を始めて海水のモニタリング結果を公表し、安全性をアピールする狙いがあるとみられる。風評被害対策には、漁業者支援などに充てる計800億円の基金を活用する。
処理水は、溶け落ちた核燃料を冷却した水などを多核種除去設備(ALPS)などで浄化した際に発生する。現在は原発敷地内のタンク1000基超に保管。タンクが増え続ければ廃炉作業の妨げになるため、政府と東電は「福島の復興に避けて通れない課題」と訴えてきた。
処理水は海水で希釈し、トリチウムの濃度を国の基準値の分の1未満に薄めて原発から約1キロの沖合に流す計画。放出後は、政府などが海域や水産物のトリチウム濃度を継続的にモニタリングする。放出完了には30年程度かかるとみられる。
国際原子力機関(IAEA)は7月、放出計画が「国際的な安全基準に合致している」とする包括報告書を岸田首相に提出。福島第1原発の放出設備も原子力規制委員会の審査に合格済みで、安全規制面などの準備は整っていた。
政府と東電は2015年、福島県漁業協同組合連合会に対し「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」と約束していた。首相は21日、全国漁業協同組合連合会(全漁連)や地元漁協の幹部と首相官邸で面会し、風評被害などの対策に「国が全責任を持つ」と伝えた。
国際社会の理解は広がりつつある。今月上旬には欧州連合(EU)などが福島第1原発事故後に導入した日本産食品に対する輸入規制を解除。韓国の尹錫悦大統領は18日、IAEAの包括報告書を「信頼している」と評価した。ただ、韓国野党は尹政権への批判を強めているほか、中国は放出前から日本の水産物への放射性物質の検査を厳格化しており、鮮魚などで既に影響が出ている。