政府が「夏ごろ」としてきた東京電力福島第1原発の「処理水」の放出開始時期が固まった。放射性物質トリチウムを取り除くことが難しいため、これまでは原発敷地内に設置したタンクで保管されてきたが、廃炉作業を進める上で用地の確保が難しいことなどから海に流して減らすためだ。政府・東電は「健康への影響はない」として、地元の漁業関係者や国際社会に対して理解を求めてきた。
処理水は、主に炉心溶融(メルトダウン)を起こした1~3号機で溶け落ちた核燃料(デブリ)の冷却などで発生する汚染水を、多核種除去設備(ALPS)などで浄化処理した水だ。ただ、現在の技術では化学的性質が水素と似たトリチウムは取り除くことができない。
トリチウムは水素の「放射性同位体」で半減期は約12年。三重水素とも呼ばれ、弱い放射線(ベータ線)を出す。処理水は現在も増え続けており、東電は事故後の12年間、処理水を保管するタンクを増設することでしのいできた。
現在、同原発敷地内には高さ12メートルほどのタンクが約1000基並んでいるが、総貯蔵量は容量約137万トンの98%に上る。東電は「廃炉作業を進めるためにはこれ以上の増設は難しい」としており、来年6月までには満杯になると試算されている。
政府は放出方法について専門家による小委員会で検討を進め、海洋放出を決めた。トリチウムは自然界の水や人の体内に存在しており、他の放射性物質と比べて健康への影響は低いとされることや、通常の原子力施設でも発生しており各国でも海や川に放出していることなどが決め手となった。
計画では、トリチウムを含んだ処理水を海水で薄め、濃度を国の基準の40分の1未満に引き下げた上で、原発から約1キロの沖合に放出する。これは世界保健機関(WHO)の示す飲料水基準の7分の1程度だ。
放出前には、トリチウム以外の放射性物質29核種についても測定し、濃度が基準未満になっているかを確認。放出後も東電や環境省などが海水のトリチウム濃度を測定して公表するとしている。