厚生労働省の専門部会は21日、製薬大手エーザイと米医薬品大手バイオジェンが共同開発したアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」の薬事承認を了承した。症状の進行抑制が確認された初めての薬で、認知症治療の在り方を大きく変える可能性がある。厚労省は近く正式承認し、年内にも実用化される見通し。
アルツハイマー病は、脳内に「アミロイドβ(ベータ)」というたんぱく質が蓄積することで、神経細胞が傷つき、認知機能が低下する病気。従来の治療薬は、症状の一時的な改善効果はあっても、時間の経過に伴い脳の萎縮が進むのは止められなかった。
レカネマブはアミロイドβを取り除くことで、症状の進行を遅らせる効果があるとされる。臨床試験(治験)では、薬を18カ月投与すると、偽薬を使った患者と比べて、初期段階の患者の症状進行が27%抑制された。一方、投与者の12・6%に脳の腫れ、17・3%に微少出血などが認められた。
厚労省によると、専門部会の委員から副作用に関し、磁気共鳴画像装置(MRI)を活用したリスク管理を求める意見が出たという。
エーザイは1月、厚労省に製造販売の承認を申請。医薬品医療機器総合機構(PMDA)が重篤な病気向けの優先審査の対象とし、通常はおよそ1年を要する審査期間が約9カ月に短縮された。
薬事承認後、60~90日以内に医薬品の公定価格(薬価)が設定される。海外で先に承認された場合は、海外での価格が前提となるケースも多く、7月に正式承認された米国での卸売価格は患者1人当たり年間2万6500ドル(約380万円)に上る。高額な薬価は、患者の自己負担に上限を設ける「高額療養費制度」が適用されるため、費用の大部分は公的医療保険で賄われる。
厚労省によると、国内の認知症の高齢者数は2020年時点で約600万人と推計。レカネマブの投与対象は症状が軽度の患者に限られる一方、保険財政を圧迫する懸念もある。同省の担当者は「医療保険財政への影響も勘案して、総合的に判断したい」と話している。