夏祭りで立ち並ぶ屋台や露店は風物詩の一つだが、暴力団員が取り仕切り、組の収益源となることもある。今年はコロナ禍を経て数年ぶりに開かれる夏祭りも多く、警視庁幹部は「子どもたちのお小遣いを暴力団の資金源にさせてはいけない」と語る。
8月上旬、東京都内で4年ぶりに開かれた花火大会。「焼きそば」「かき氷」など数十の屋台に色とりどりののれんが目を引く。夕暮れ時、鉄板で調理する店主はにぎやかな声を上げ、浴衣姿の男女が列をなしていた。
同庁暴力団対策課によると、神社や地域の祭りに屋台を出す露天商の一部は、暴力団化している。過去にはこうした露天商が境内などを縄張りにし、出店料を集めて祭りを仕切ることも少なくなかった。
都内のある神社では約30年前、暴力団の息が掛かった露天商と関係を切り、氏子らと手作りの露店を始めた。利益追求を目的とせず、価格も抑えたが、当初は慣れない作業の中で手探りの運営が続き、暴力団関係者とみられる嫌がらせの電話もあった。
しかし、軌道に乗るにつれ「少ないお小遣いでも子どもが楽しめる」と応援の声も増えた。宮司の男性は「地域をよくするためにと続けてきたかいがあった」と語った。
暴対課によると、露天商は高齢化が進み、衰退傾向にある。日本最大の露天商系指定暴力団極東会では、この10年で都内の傘下約15組織が解散するなどし、構成員約550人のうち、約400人が離脱した。昨年7月には、大正初期から続くとされる老舗の露天商系暴力団姉ケ崎会が解散。一部の構成員は別の暴力団を結成し、活動を続けている。
この数年は、コロナ禍も弱体化の流れに拍車を掛けた。警視庁は昨年10月、国の持続化給付金などを詐取したとして、暴力団飯島会幹部の男ら8人を逮捕。男らは「露天商の収入が減り苦しかった」などと供述した。
ただ、暴力団関係者が表立って屋台を切り盛りしないケースも多く、暴対課幹部は「完全に排除できているわけではなく、捜査員による祭りの視察など、地道な対策を続ける」と話す。別の捜査関係者は「真面目に働いている露天商を暴力団から守らなければいけない」と語った。