(中)中学生に託す願い 「直接声聴ける最後の世代」

  • 平和の誓い明日へ, 特集
  • 2023年8月17日
戦争を体験した池野さん(右)の話に耳を傾ける渋谷さん

  苫小牧市民活動センターで7月30日に行われた、戦争と平和をテーマにした市民団体主催の集会「平和のつどい」。中高年の市民らに交じり、苫小牧東中学校3年生の渋谷ゆうなさん(15)の姿があった。終戦後の満州・敦化(現中国吉林省)の日満パルプ製造敦化工場で起きた集団自決事件の生存者、池野京子さん(85)=泉町=の話を聴くためだ。

   歴史に関心がある渋谷さんは昨年、母の知人の高齢女性から戦争体験談を聴いた。女性は空襲で周りの人を失ったつらい過去を吐露した後、「戦争は嫌だ。お前が平和をつくっていくんだよ」と渋谷さんに未来を託したという。

   そのエピソードをつづった作文が昨年度、市教育委員会などが主催する中学生主張発表大会で優秀賞に選ばれた。今年1月、苫小牧民報に掲載された作文を読んだ池野さんは、戦争に関心を寄せる若い世代がいることに感動。「良かったら、私の話も聞いてみないか」と、自身が講話する平和のつどいに渋谷さんを誘った。

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   池野さんが終戦を迎えたのは7歳の時。日本の無条件降伏後もソ連軍の満州侵攻はやまず、池野さんがいた同工場の社宅群にも進駐し、略奪と性的暴行を尽くした。

   「こうして生き延びるのは日本人の恥だ」。監禁された部屋の中で、女性たちは集団自決を決意。青酸カリをあおり、もがき苦しみながら死んでいった。おなかに赤ちゃんがいた妊婦は、大きく飛び跳ねた末に絶命した。池野さんの妹は「くっくっく」と3回小さく息を吐き、3歳で亡くなった。

   池野さんの手にも白く光る粉が載せられた。「自分も早く死ななければ」。死よりも現実の方が恐ろしかった。毒を口にすると、あっという間に気を失った。

   飲んだ量が少なかったためか、池野さんはその後、奇跡的に息を吹き返した。見回すと部屋の中には死体が転がり、青酸カリがなかった隣の部屋ではかみそりで首を切ったのだろうか、血の海の中で女性たちが死んでいた。「死にたくない」と泣き叫ぶわが子を手にかけてしまったと、ぼうぜんとする女性もいた。

   「戦争は生き残るのも地獄。私も60歳を超えるまで、この話を人の前ではできなかった」。平和のつどいで、78年前の悲劇を告白した池野さん。穏やかな口調で語られる壮絶な内容に、渋谷さんは身じろぎせず、じっと耳を傾けた。

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   「私たちは、戦争経験者の声を直接聴ける最後の世代かもしれない」。池野さんの講話を聴き終え、渋谷さんは静かに語った。

   「戦争に関する大まかなことは歴史の教科書にも書かれているけど、私たちのまちで何があったのか、人々はどんな思いだったのかは知ることはできない」。つらい記憶と向き合い、言葉にし続ける戦争経験者の証言から学ぶものの大きさを実感している。

   しかし、戦争経験者の高齢化が進み、こうした証言を聴くことができる時間はもうそれほど長くはない。「戦争について知ったり考えたりする機会をもっと身近にしないと戦争の怖さも平和の大切さも、どんどん忘れられそう」。次の社会を担う若者として、危機感を募らせている。

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