英国の医学誌「ランセット」が発表した認知症の12の危険因子とその対策を、これまでお伝えしてきました。最後にご紹介する二つは運動不足と糖尿病です。これらを改善できれば、それぞれ認知症の2%と1%を防ぐ効果があります。
近年、運動が脳に与える影響が注目されています。「スマホ脳」の著者アンデシュ・ハンセンによるベストセラー「運動脳」にも詳しく書かれていますが、脳と身体は別々の二つの器官ではなく、密接なつながりがあります。
習慣的な歩行は、認知症発症率を40%減らせるとの報告があります。ウオーキングか軽いジョギングを週に150分(30分ずつ週5回でもよいです)か、20分のランニングを週3回のいずれかが推奨されています。心拍数を上げる有酸素運動を30分程度行う習慣を持つことが有効です。
運動には、アルツハイマー病の原因とされるアミロイドβ(ベータ)というタンパク質が脳にたまるのを防ぐ作用があるだろうと考えられています。運動はまた、認知症の危険因子である高血圧、肥満、糖尿病も減らします。
九州大による「久山町研究」では、糖尿病患者はそうでない人と比べ、認知症発症率が1・7倍、中でもアルツハイマー型認知症は2倍上昇すると報告されています。日本人には、冒頭で紹介した1%より大きな影響があるのかもしれません。
糖尿病は、インスリンの作用不足により高血糖が続く病気です。インスリンは脳においても大事な働きがあり、神経細胞がブドウ糖を取り込むのに必要だったり、アミロイドβが脳にたまるのを防いだりする可能性が指摘されています。
糖尿病対策としては、栄養バランスを考え、食べ過ぎないこと、運動量の増加、肥満の防止と是正などが挙げられます。
次回からは認知症とわたしの専門でもある睡眠との関係をお伝えします。
(下畑享良・岐阜大教授、イラストはスギウラフミアキ)