認知症の12の危険因子のうち、7番目と8番目にお伝えするのは喫煙と大気汚染です。これらを改善できれば、それぞれ認知症の5%と2%を防ぐ効果があります。
喫煙は肺や心臓に害を与える上、アルツハイマー型認知症や血管性認知症を増やします。日本の代表的な調査である九州大による「久山町研究」で、中年期から老年期にかけて喫煙を続けた場合、認知症の発症リスクは2・3倍(アルツハイマー型認知症2・0倍、血管性認知症2・9倍)上昇すると分かりました。
過去には、たばこに含まれるニコチンが認知症を予防するとの非科学的な説が流布された時代がありましたが、まったくの誤りです。喫煙が認知症を来すメカニズムとして、たばこが動脈硬化を招くことや、糖尿病、高血圧、脳血管障害といった危険因子を引き起こすことが挙げられます。
幸い老年期になってからでも禁煙すれば、認知症の発症リスクはかなり下がります。速やかに禁煙を決断し、周囲も禁煙を続けられるようサポートすることが大切です。喫煙者の周囲の大人や子供の受動喫煙も問題です。さまざまな施設が原則屋内禁煙となっていますが、さらに制限を進める必要があります。
大気汚染も、呼吸器疾患だけでなく、認知症の危険因子であることが明らかになっています。大気汚染物質には、自動車の排ガスや住宅用木材の燃焼で排出されるPM2・5、二酸化窒素、一酸化炭素などがあります。
アルツハイマー型認知症の原因は、アミロイドβ(ベータ)と呼ばれるタンパク質が脳内にたまることだとみられていますが、大気汚染でアミロイドβの蓄積が進む可能性が示されています。
認知症予防には、政治による取り組みも必要なのです。PM2・5の濃度が高いような、大気汚染のひどい地域で空気の質を改善することが求められます。
(下畑享良・岐阜大教授、イラストはスギウラフミアキ)