「ドブネズミみたいに美しくなりたい」。ロックバンドザ・ブルーハーツの代表曲の一つ、「リンダリンダ」の冒頭フレーズ。世代を問わず愛される曲だが、実際にドブネズミを見たことがある人はそれほど多くないのではないか。
幼稚園児の頃、友達と団地内を駆け回っていて、路上に横たわるドブネズミと遭遇した。痩せていてぴくりとも動かない。「かわいそう。早く誰かに教えないと」。両手のひらで柔らかく包み込むと全力で家まで走った。母に見せればきっと「よく見つけたね」と褒めてくれると信じて。しかし、反応は真逆だった。
「ギャー」。居間で友人と談笑していた母親らはテレビでしか耳にしたことのないような悲鳴を上げた。そして居合わせた誰かがそれを奪い、何か叫びながら外へ出て行った。想定外の出来事にただぼうぜんとした。本物のネズミも動物の死骸も、大人の叫びも初体験だった。ラジオの有線放送や夏祭りの演奏などでリンダリンダを耳にするたび、記憶がよみがえる。弟もその数年後、病気の野良猫を抱いて帰宅し、同じ目に遭った。あちこちがドブ臭く、公園も不衛生で狂犬病やエキノコックス感染などが今よりも心配されていた時代の小話。きょう8月1日は自然環境クリーンデー。 (輝)