公営塾「よりみち学舎」に通う生徒との関わり方を悩みながら、自分なりの理想を追い掛けるその中で、時折思い出す先生がいる。高校生の頃に出会った数学の講師。必死に解いた僕の解答を見て「この解き方、渋くていいね」と、俵万智のサラダ記念日みたいに言ってくれた。それがうれしくて、恨んでいたくらい嫌いだった数学が好きになった。
答えはたった一つしかなくても、導き出し方はたくさんあることを初めて知った。「僕だったらこういう解き方をしちゃうな」と先生が見せてくれた解法は、スマートできれいに見えた。今思えば、ずいぶん遠回りをした自分の解答を、間違いとせずに個性として面白がってくれた先生の優しさがそこにある。
話は変わって先日、厚真高校の文化祭で生徒とバンドを組んでステージに立った。昨年に続いて、2度目のバンド出演。同じ目線に立って、一つのものを作り上げていく。上下関係も年齢差も関係なく、一つの舞台を一緒に作る過程には、あらゆる垣根を越えた関係性がある。生徒とのバンドの演奏は、そういう面白さがある。「今のはいい感じだった、楽しかった」。本番前日の最終練習を終えた時、はじけるような笑顔を浮かべて生徒がそう言ってきた。
ギターの弾き方を教えることができても、バンドとしての演奏や楽しみ方を教えることはできない。一緒に手探りで作り上げていく。一人ひとりが必死に演奏する時に垣間見られるその個性を、僕はあの日の先生がしてくれたようにたたえ合いたい。「この味がいいね」と今度は僕が言う。
(厚真町地域おこし協力隊)