米海兵隊の輸送機オスプレイ配備の負担が、本土に波及する。日米合意により配備先の沖縄県を除く国内の山岳地帯で、航空法の最低安全高度(150メートル)を大きく下回る約60メートルでの飛行が可能になった。実戦的な訓練の場を求める米側の要請を政府が受け入れた結果だが、合意で決まった飛行経路は開示されず、都道府県は蚊帳の外だ。危険を伴う低空飛行が列島で常態化する。
◇最低2機で飛行か
低空飛行は10日から可能となったが、高度約60メートルと言えば山間部の送電用の鉄塔より低いこともある。陸上自衛隊OBで攻撃ヘリコプターの元パイロットは「木材を搬出するワイヤも山あいに張られており、経路を熟知する必要がある。事故に備えた救援機も随伴し最低でもオスプレイ2機で飛行するだろう」と話す。
山間部では消防防災ヘリやドクターヘリも飛ぶ。いずれも航空法上、捜索・救助のために最低安全高度より低い所を飛行できる。高速のオスプレイと遭遇すれば、回避できない恐れもある。
全国知事会は低空飛行に関し、事前の情報提供を繰り返し政府に要望してきた。しかし、防衛省は「飛行の日時や経路は米軍の運用に関することであり情報は提供できない」と応じない方針だ。
◇北日本で「地ならし」
日米両政府は昨年9~10月に期間限定でオスプレイの最低高度を約90メートルに下げることで合意。北海道で行われた海兵隊と陸自の実動訓練に合わせた措置だったが、低空飛行の本格化に向け、地ならしをした形だ。
在日米軍によると、参加した米オスプレイが北海道に展開する機会を利用し、高度約90メートルの低空での戦術飛行訓練を行った。実施した空域は「北日本近辺」としている。
新たな日米合意は「自衛隊が飛行しない地域は飛行しない」と規定。海兵隊が訓練日や時間帯、機数、飛行経路を自衛隊に事前通報すると明記しており、自衛隊の飛行空域を使う可能性もある。
本州には自衛隊の「低高度訓練空域」が9カ所常設され、うち2カ所は昨年、米軍機使用のため調整が図られた。自衛隊によると、一つは栃木、福島、群馬、新潟、長野各県にまたがる山岳地帯を含む空域「エリア3」。もう一つは米軍岩国基地(山口県)に近く、島根、広島、山口各県を含む「エリア7」。2012年のオスプレイ配備の際などに判明した日本列島に設けられた米軍の飛行経路に近い。
経路には色の名前が用いられ、東北を縦断する「グリーン」「ピンク」、山形から新潟、群馬、長野、岐阜各県方面に続く「ブルー」、近畿・四国「オレンジ」、九州「イエロー」、沖縄・奄美大島「パープル」を設定。中国山地上空の「ブラウン」もあるとされ、米オスプレイは本土飛来の際、これらを使用するとみられる。
オスプレイを巡っては、昨年6月に米国で、5人が死亡する墜落事故が発生。海兵隊は「ハード・クラッチ・エンゲージメント」と呼ばれるクラッチの不具合などが原因と発表し、パイロットに過失はなかったとした。海兵隊は「搭乗員はなすすべがなかった」ともしており、低空飛行による安全への懸念が一段と高まった。