自己評価 上 伝統芸能上演に手応え 逆境の中、工夫凝らし誘客

  • アイヌ文化を紡ぐ ウポポイ3年, 特集
  • 2023年7月10日
国立アイヌ民族博物館の佐々木館長

  白老町のポロト湖のほとりに2020年、アイヌ文化の復興と発信のナショナルセンターとして整備された民族共生象徴空間(ウポポイ)が、12日に開業3周年を迎える。5月に新型コロナウイルスが感染症法上の位置付けで5類に引き下げられ、入場者の増加が期待される中、ウポポイの果たす役割や地域への効果、今後の期待感を探った。

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   ウポポイは国立アイヌ民族博物館や古式舞踊の公演施設などを配し、年間来場者数100万人を目標に掲げて開業した。コロナ禍でオープンは当初の4月24日から大幅に遅れ、入場人数や体験プログラムの参加者数も制限からのスタート。年間来場者数は1年目約22・2万人、2年目約19万人、3年目約36・9万人と目標を大きく下回った。

   こうした逆境の中でも誘客を目指し、感染対策を施しながら、中核施設・アイヌ民族博物館では、常設展以外にアイヌ民族の偉人の業績、暮らしや言葉に注目した特別展、さらに白老や阿寒など地域文化を紹介するテーマ展を開催。多くの課題が指摘される中で、今後も各地域のアイヌ文化の独自性や多様性を伝えながら、それぞれの地で同館の資料を伝承や学びに活用してもらう活動を進めていく。同博物館の佐々木史郎館長は「伝承したい人や学びを深めたい人たちに、身近な施設になるようにしたい」と意欲を示す。

   アイヌ民族文化財団民族共生象徴空間運営本部の野本正博副本部長は、ウポポイの古式舞踊の公演施設で伝統芸能の上演などを手掛け、各地域の伝承力を基盤にした上演プログラムを制作したことを一つの成果と捉えている。

   各地域で受け継がれてきた伝統芸能「シノッ(遊び)」や伝統儀礼「イヨマンテ(熊の魂送り)」の精神性や歌や踊りを開業前に再現。創作プログラム「イノミ」として形にした。初めての来場者にアイヌ文化を正しく伝えることもウポポイの役割になる。「大きな挑戦だったが、(実現できたことは)職員の自信につながった」と手応えを語る。

   開業後も研さんを重ね、今年4月には、歴史に埋もれた歌舞を復元したプログラム「イメル」もできるように。「各地域の伝承に込められた思いを受け継ぐために、伝承者との交流は絶やしてはならない」と話し、今後は文化の基礎にある「言葉の力」を発揮できる活動も進めるという。

   同運営本部の村木美幸本部長は3年目を迎え「ウポポイが担う役割において、各地の精神文化を伝承していく活動は道半ば」。一般来場者がアイヌ文化に理解を深めるための活動を重視しつつ、伝統の精神文化を未来につなげるため、「ウポポイとともに各地域で文化の底上げを図っていくことが重要」との認識を示す。

   過去の同化政策でアイヌ語の使用や伝統の営みが禁じられ、差別にも遭い、民族の誇りをいまだに取り戻せない人々は多い。「ウポポイの取り組みがアイヌの血を引く全ての人たちにとって、自信を取り戻し『アイヌで良かった』と思えるものにしたい」と力を込めた。

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