日高山脈の主峰幌尻岳(2052メートル)に初めて登ったのは、1978年の初秋だ。静内支局(当時)に転勤して地元山岳会の飲み会に誘われた席で「樽前山に登れたんなら大丈夫」とだまされた。一歩歩くごとに「2度と山には登らない」と、10時間近くも愚痴を繰り返しながらピークを通過。やがて氷河が削った急斜面を下って野営地の七ツ沼に到着した。雪解け水をたたえる沼のそばで、満天の星と人工衛星を見ながらの酒に愚痴は吹き飛んだ。翌日朝には初めてエゾナキウサギの鳴き声を聞き、対面もできた。
本州の日高山脈ファンも集まる、はるかなる山・ペテカリ岳(1736メートル)登山会の裏方も務めた。何十年たってもあの山の遠さ、厳しさを忘れない。先輩の何人かはすでに旅立ったが声や笑顔とともに教えを思い出す。来たときよりも美しく。無事に帰り着くまでが登山―。
日高山脈襟裳国定公園が、2024年内に国立公園に指定される。環境省が先月、発表した。周辺市町村からは観光面での期待が大きい。世界文化遺産に指定され、10年が過ぎても、ごみ問題などを解決できない富士山の例がある。汚し、破壊して後悔しても遅い。自然保護と登山や観光との両立をさらに考えたい。ヒグマたちも変わっているようだし。(水)