国際原子力機関(IAEA)は4日、東京電力福島第1原発の敷地内にたまる放射性物質トリチウムを含む処理水の海洋放出計画について、「国際的な安全基準に整合的である」と結論付けた包括報告書を公表した。報告書は放出が人体や環境に与える影響は無視できるとの見解も示した。岸田首相は今後、「夏ごろ」としてきた放出開始時期を最終判断する。
首相は同日、首相官邸でグロッシIAEA事務局長から報告書を受け取り、「わが国として誠実に対応していきたい」と述べた。政府や東電は、開始時期を「夏ごろ」としているが、地元漁業者や中国が反発しているほか、韓国からも懸念の声が出ている。政府はIAEAの報告書の内容を国内外に情報発信して、理解を得たい考えだ。
IAEAは日本政府からの要請を受け、複数回にわたり調査団を派遣。これまでも放出方法の妥当性や、東電や原子力規制委員会の対応の適格性などを検証しており、今回が放出前最後の報告書となる。
グロッシ氏は首相との会談で、報告書について「科学的かつ中立的なものだ」と指摘した上で、「日本が次のステージに進むに当たって、決断を下すのに必要な要素がすべて含まれている」と述べた。
IAEAは福島第1原発に拠点を設け、海洋放出の最新のデータを随時、国際社会に提供することで透明性などを確保していく方針だ。グロッシ氏は会談後に東京都内で開いた記者会見で、「今後、数十年にわたってモニタリングする」と強調した。
政府は2021年、原発の敷地内で処理水を保管するタンクの容量が限界に達することから、海洋放出を決定。処理水を海水で薄め、浄化設備で除去できないトリチウムの濃度を国の基準値の40分の1未満に引き下げた上、原発から約1キロの沖合に放出する計画だ。