認知症や、その疑いのある人で、行方不明の届け出のあった人が2022年、全国で1万8709人に上ったという。警察庁の集計。10年前のほぼ2倍だ。厚労省の推計では12年に462万人だった認知症患者は、団塊の世代全員が75歳以上になる25年には約700万人、高齢者の5人に1人になる。誰でもが認知症になる可能性があり、介護を担う時代。そういう時代が、目の前に迫っている。
母が認知症の診断を受け、施設で最期を迎えたことをこの欄で何度か書いた。母は、遠くに住む長男が病に倒れた時、見舞いに行くことを自分で決められず、子どもの前で「情けない」と泣いた。飛行機の乗降に自信がなかったのか。道中のトイレが不安だったのか。詳しくは聞かなかった。自分は、その苦しみやつらさの百分の一でも察してあげられたろうか。思い出すたびに後悔させられる。
先の国会で認知症基本法が成立した。認知症の人が尊厳を持って暮らすことができる社会づくりが目的だ。「共生社会実現への寄与」が国民の責務として掲げられている。認知症の人たちの誇りを守り、孤独や苦しみを真っ先に聴いて、見て想像できるのは、きっと最も近くにいる家族だ。行政に頼って任せるだけでなく、しっかりと責務を考えたい。(水)