夏空に、水彩画のスケッチでサッと描いたような白い雲が浮かんでいる。札幌の自宅マンションから豊平川沿いを、20分ほど散歩すると広大な中島公園がある。大きな池でボートも楽しめて、何となく東京・吉祥寺の井の頭公園に似ている。春はサクラ、秋はイチョウの黄色の回廊も見られて、大好きな場所だ。
先週末はこの公園内にある道立文学館を訪ねた。日本を代表する映画監督の一人、小津安二郎さんの特別展を見るためだ。直筆の手紙や台本、ポスター、写真など貴重な資料が並び、引き込まれた。
個人的には「晩春」や「麦秋」が好きだが、小津さんの代表作といえば「東京物語」。イギリス映画協会が2012年に発表した、世界中の映画監督の投票による映画ベスト30の中で見事1位。1953年に公開されたモノクロ作品が、世界中で最高の評価がなされている。
作家の佐藤優さん監修の「教養としての世界の名言365」(宝島社)の中でも、「東京物語」で女優・原節子さんが語る言葉が選ばれている。「私、いつまでもこのままじゃいられないような気がするんです…」。「家族」という普遍的テーマは、現代でも多くの意味を投げ掛けている。世界が愛した映像詩人が天国に旅立って、60年の歳月が流れる。(広)