<29> 昭和48年 好況も石油危機で物価高騰、モノ不足 苫東巡り「挙市一致」から対立へ

  • 特集, 郷土の戦後昭和史
  • 2023年6月26日
総合体育館の使い初め(昭和48年8月3日)
総合体育館の使い初め(昭和48年8月3日)
開基100年事業を巡って紛糾する市議会(昭和48年8月10日)
開基100年事業を巡って紛糾する市議会(昭和48年8月10日)
姉妹都市提携で調印する後藤聡一八王子市長(左)と大泉源郎市長(昭和48年8月10日)
姉妹都市提携で調印する後藤聡一八王子市長(左)と大泉源郎市長(昭和48年8月10日)
吉田寿三郎・大阪医大教授
吉田寿三郎・大阪医大教授
※厚生労働省「賃金、物価の動向と勤労者生活」から作成
※厚生労働省「賃金、物価の動向と勤労者生活」から作成

 1973年、元号でいえば昭和48年の10月、第4次中東戦争の勃発による第1次石油危機が世界を襲った。いわゆるオイルショック(第1次)である。1960年代後半からわが国は他の先進国同様インフレの中にあって物価高騰が進んでいた。それがオイルショックによって原油価格が4倍にもなり、物価高、モノ不足の波は一気に跳ね上がった。企業は資材を、消費者はトイレットペーパーを買い占めに走った。苫小牧でも同様であった。ただ、この地方は苫東開発計画の中で好況を見せ、人口が増え、新たなハコモノ施設がどんどんできていた。しかし、浮かれてはいられなかった。中央(政府)発である苫東計画を巡って、地方にはそれまでにはなかった政治的、社会的な対立構造が生まれた。

 ■好景気と物価高騰、モノ不足

 この年、苫小牧にはどんな施設ができたかといえば、大体次の通りである。

 苫小牧法務合同庁舎、日新小学校、特別養護老人ホーム緑陽園(以上1月)、苫小牧公害防止センター(3月)、錦岡合同庁舎=市役所の出張所・公民館・消防(4月)、市営球場(5月)、ホテル・ビバリー・トム、苫小牧東電報電話局(以上6月)、苫小牧市身障者会館(7月)、苫小牧市総合体育館(8月)、ホテルニュー王子(9月)、長崎屋苫小牧店、王子不動産第三ビル(10月)

 苫小牧はこの年、いわゆる「開基100年」を迎えたから、それを機会に多くの施設ができたということもある。

 好景気の中でも、庶民の暮らしは大変だった。この年春あたりから物価高は目に見えて進んでいたが、オイルショックの10月以降これに拍車が掛かった。「昨年1本15円だった漬け物用大根が30円を超え、漬け物樽も深刻な木材不足から価格が10~20%上がり、庶民の味も高嶺の花」(10月30日付、苫小牧民報)、「家庭用燃料の灯油やLPガスが極度に不足しているのをはじめ医療品のガーゼや脱脂綿、合成洗剤、トイレットペーパー、砂糖なども不足。市民の間でも買いだめ騒ぎがおきるなど市民生活に深刻な問題をなげかけている」(12月28日付、同)。

 苫小牧市は暮れも押し詰まった12月27日、生活物資緊急対策本部(本部長・新岡正敏助役)を設置したが「具体的な施策は立っていない。当面、流通状況や価格の調査を行い…方策を検討したい」(新岡本部長)。この年の平均消費者物価上昇率は8・0%、翌年は13・5%(内閣府)にもなった。

 ■苫東賛否で対立構造

 「開基100年」を経てどのようなまちづくりをするか。「その骨格を成すのが苫東という巨大開発だったが、既存企業も含めて現苫立地の大企業が続々と公害を流していたという背景の中で、市民の公害に対する関心は次第に高まり、資源問題、さらには石油化学工業の危険性が指摘されてきたということから、東部開発に対する疑問が市民の間に高まってきた」(12月30日付、苫小牧民報)

 大泉源郎市長はこのような情勢の中で、住民本位の地域開発をうたう必要性に迫られ、中央発の苫東計画に対して市の苫東独自案を作成し、「住民のための巨大開発」を推進しようとした。しかし「社会党をはじめとする革新団体は、この独自計画そのものが国や道の東部開発のステージプランだとして強く反発。大資本べったりで公害をたれ流す東部開発の白紙撤回を求めて譲らず、とうとう大泉市長を過去3回推薦してきた社会党苫小牧支部は同市長に辞職を勧告するところまでいってしまった」(同)。

 それまでの現苫(苫小牧西港と臨海工業地帯開発)に見られた「挙市一致体制」は苫東開発を巡る大きな流れの中で崩れ、対立の時代に入った。

 ■福祉重視、人間性尊重の声

 70年代(西暦)を迎えたこの頃、多くの人が「福祉重視」を声高に叫び始めた。高度経済成長の中にあって、一つの潮流であった。いや、流行であったかもしれない。これについて、苫小牧民報が厳しく論陣を張る。

 「経済優先、成長主義から福祉重点への移行が叫ばれてから久しい。(略)田中内閣の誕生を経て、昨年十二月の総選挙において、どの政党も福祉政策を前面に押し出し、国民は選択に迷うほどであった。しかし、真の意味で、福祉政策は重点的に実行されたことはなかったし、少しずつ福祉関係の予算はふえても雀の涙ほどであった。今年は政府、地方自治体もいよいよ”福祉政策実行の年”として予算編成の詰めを急いでいるが、福祉国家とは?福祉社会とは?福祉行政とは?という問題意識からこのことを見詰めているであろうか。現状、施設は不足しているが福祉政策とは、カネだけで解決するなどと早合点されると、およそ真の意味の福祉社会、福祉国家からは遠く離れて没人間性のうば捨山的社会をつくる恐れがある。専門の学者の話によると、老病弱者といえども同じ人間として見るなら、生きようとし、社会生活をしようとするバイタリティーを基礎に、それを発揮する自助を伸ばす自律性と、それに協力することが、福祉であり、そのような社会が福祉社会なのだそうである。政府、自治体は、福祉実行の年に当たって、真の福祉とは何ぞやという原点から出発すべきであろう」(概要、1月1日付、同)

 さらに「文明人間から文化人間へ」、モノ重視から人間性・環境・文化重視への必要も。これらの論議が、この年の「人間環境都市宣言」(11月17日、市議会全会一致で可決)へとつながっていく。

一耕社代表・新沼友啓

 ■人間福祉社会の建設 70年代、文化人間への変容

 街が苫東開発に沸き立つ昭和48年、苫小牧民報新年号は「文化」「社会福祉」をテーマとして掲げた。以下は宮本義勝社長(道議会厚生常任委員長)と吉田寿三郎・大阪医大教授(公衆衛生学・老年社会臨床医学)の対談から吉田教授の発言の一部。  「一九七〇年代は、人間性を復活高揚し、文明人間を脱して文化人間へ変容する人類史上かつてない一大革新を行うべき時代です。エネルギーを開発し科学を創造した文明人間からエネルギーや人口を安定させ環境の破壊を修復して、有限な地球条件のなかで、生態学的に人間自身を含めて万物がところを得る最高の調和に向かって努力していく文化人間になること。その方法の原理を社会医学ないしは社会福祉学的に表現すると『老人を含め人間は自ら自立を努力し、社会はその方向へ援助する』ということになりましょう。エネルギーと人口の爆発を制御する力を、生物学的に見るなら、そこに老人対策なり、福祉社会のあり方と結びつくものがあるのです。私はその制御力のある人間を文化人間と呼び、文明人間から文化人間への変容をとげるべき時代だと指摘しているのです」(昭和48年1月1日付「苫小牧民報」)

  

  【昭和48年】

 苫小牧市の世帯数4万3407世帯、人口12万8882人

 〈世界と日本の出来事〉 ベトナム和平協定(1月)、為替レート・1ドル=308円の固定相場制から変動相場制へ(2月)/オセロゲーム発売(4月)/日本赤軍によるドバイ日航機ハイジャック事件、ブルース・リー死亡、地球観測衛星『ランドサット1号』打ち上げ(以上7月)/金大中事件(8月)/第4次中東戦争、オイルショック・モノ不足・大手商社の買い占め起こる(10月)

  

 7月 1日 泉町、日の出町新設

 7月 3日 苫小牧が道内初の公害防止計画策定地域に指定

 8月 4日 東部地区埋蔵文化財分布調査開始

 8月10日 八王子と苫小牧市姉妹都市を提携

 8月11日 開基百年・市制施行25周年・開港10周年記念式典挙行

 9月24日 出光興産北海道製油所完成式。原油精製日産7万バレル

 10月16日 苫小牧東部工業地帯の大規模開発に関する苫小牧市構想試案発表

 11月17日 苫小牧市議会が「人間環境都市宣言」「苫小牧市基本構想」を全会一致で可決

 12月10日 苫小牧市役所が電子計算事務を開始。市民サービス課(通称すぐやる課)と自然保護課を新設

 12月27日 苫小牧市生活物資緊急対策本部発足

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