厚真町に来て、3度目の夏を迎えようとしている。地域おこし協力隊の求人を見つけたのが、ちょうど2年前の今頃だった。もともと東京で会社員として働いていた僕にとって、縁もゆかりもない北海道での新生活。今思うと不思議なくらい不安のようなものは一切なかった。新型コロナウイルス流行による2021年の緊急事態宣言下、数個の段ボール箱に大きな期待を詰め込んで厚真町へ移住した。
町内唯一の高校、厚真高校に通う生徒たちの3年間を丸ごと魅力的なものにする。そんな「高校生活魅力化」というミッションを掲げ、町とつくる公営塾の立ち上げスタッフとして働いている。公営塾の名前は、生徒たちの交流と学びの場として最高の寄り道になればいいという願いを込めて「よりみち学舎」にした。
学習サポートのみならず、地域の大人たちとの対話、音楽やスポーツ、一人ひとりが夢中になれるものをとことん追いかける場所をつくろうと奮闘している。1日当たり15人前後の生徒が来ては、それぞれバレーボール、ものづくり、ギターの練習に打ち込むことが日常になりつつある。
「田舎はいい?」と、友人から聞かれるたびに「厚真にはこんな人がいてね」と話す。町を語る時、場所や物ではなく、人の話ができる。僕は田舎に来たわけではない。厚真に来たのだ。僕が今の暮らしを好きな理由の一番は、豊かな自然でも空港の近さでもない。生徒や地域の方々と過ごす時間なのだと思う。この町の本当の豊かさや同じ時代を共に暮らす人との話を、「ゆのみ」を通じて少しでも多く伝えていきたい。「好き」にはまとわりつく責任も課題もあるかもしれないが、理屈抜きの「好き」にかなうものはないからだ。
(厚真町地域おこし協力隊)