練習中、ある部員の親が差し入れてくれた「たい焼き」がスケートリンクに届き、小休止の間、食べ盛りの高校生たちは焼きたての甘味に舌鼓を打った。やがて監督がその場に現れ、主将に「誰が食べてよいと言った」と雷を落とした。その後、主将はたい焼きを同じ数買ってきて監督に手渡した―。1981年度当時の部活動中に起きた出来事を「大胆な事件があった」として、OBの一人、鎌田司さんがユーモアを交えつつ記しているのが「氷上の闘魂譜 苫小牧東高等学校アイスホッケー部五十年史」(87年)。
編著者は「監督」こと同校元教諭の名将、故人の田中正さんで、「主将」とはその時の3年生だった前田一史さんだ。
前田さんは先月22日に病のため60歳で亡くなった。身長185センチと大柄な体格で卒業後は王子製紙アイスホッケー部入りし、日本リーグではディフェンスとして活躍した。引退後にリーグ運営委員も務め、ある日、「研究してみてくれ」と紙に印字した6チーム1シーズン分の統計資料をどっさり届けてくれるなど、年下の記者の取材を何かと応援してくれて感謝が尽きなかった。王子チームはもちろん、後に所属した社会人B級チームも通じて先輩や同期、後輩から厚い信頼を集めた苫小牧っ子元選手だった。(谷)