白い雲の合間からのぞく青空の下、なだらかに曲線を描く山容が遠景に広がる。近景の色鮮やかな紅葉は、その山をたたえる観衆のようにも映る。清新な色調と堂々たる構図、細やかな筆致による、光と空間の感覚を内に含む印象派風の画風からは、素朴なまなざしのままに自然美をたたえようとする画家の息遣いが聞こえてくるようだ。
作者の鹿毛正三(1923~2002)は、苫小牧を代表する風景画家であり、苫小牧近郊の慣れ親しんだ自然風景を繰り返し描いた。とりわけ、本作のように樽前山をモチーフとする作品は、現在当館にて開催中の企画展でも紹介しており、支笏湖越しに見た角度からの眺望も含め、幾つかのバリエーションが存在する。
中でも本作は、爽やかな秋晴れのすがすがしい空気感を伝えると共に、堂々たる山のシルエットが記念碑的に捉えられた優品といえよう。
ここで、現在実施している企画展のテーマの一部でもある「風景画」という言葉に目を向けてみたい。その語源は、明治初期に英語の「Landscape」の翻訳語として用いられたことが端緒とされる。「風」とは「空気中の大気」を意味し、「景」とは「光と影」に通じる意味があるという。そうした語義を踏まえつつ、改めて本作を見た時、秋の涼しげな大気と共に紅葉の陰影をまとう樽前山の悠然たる姿からは、本作がいかに「風景画」を体現する作品であるかが伝わってくるようだ。
(苫小牧市美術博物館学芸員 細矢久人)