繊細な魚信の見極めに面白さがあるヘラブナ釣り。魚が浅場に寄る”乗っ込み”シーズンで苫小牧市樽前の通称・地蔵沼には愛好者らが日参する。魅力の奥深さの一端を探ろうと5月中旬の休日、現地を訪ねた。
本道のヘラブナは、太平洋戦争の頃に放流されたものが各地の湖沼、河川で繁殖したともいわれている。生息地は地蔵沼のほかに石狩川水系の河川や空知管内長沼町の水路などのほか、渡島管内七飯町の大沼は大物狙いで有名だ。
地蔵沼は、愛好者団体の日本へら鮒(ぶな)釣り研究会北海道地区苫小牧支部釣遊会が管理している。地権者の了解を得て、会費収入を財源に会員が自主的に沼や周辺の環境整備をし、魚や植生などを守ってヘラブナ釣りを楽しんでいる。
白老町の吉国寿郎さん(72)もその一人。真冬でも結氷した沼の氷を割って釣座を作り、活性の低い魚をあえて狙うなど筋金入りのヘラ釣り師だ。
取材の日は12尺(3・6メートル)のカーボンざおにナイロン1号の道糸、同0・5号の針素、6号の針2本を結んだ仕掛けを使用。発泡スチロールを使った仲間の手製浮きを付け、浮き下は2メートルにセットした。
この日、魚は活性が高く練り餌で針を覆って投じると浮きが立つ前に魚が掛かることも。釣ってはリリースを繰り返しながら、「浮いている小さな魚をかわして底の魚を狙うのが、きょうの釣り」と解説した。
吉国さんにとってのヘラ釣りの面白さは魚信の見極めだ。「(浮きの)トップが下がるばかりでなく、上がることも横にかすかに揺れることもある。動きでヘラかマブナか、(口以外に掛かる)スレか分かる」。季節、活性、水深に応じて餌を浮かせたり、底に落としたり。さおの調子と長さ、浮きの種類、浮き下長、糸の種類と太さ、針の形と大きさ、その全てに選択肢がある。狙いがはまって大物を上げた時の達成感と、釣れない時の戦略の考察がモチベーションだ。この4月は大沼で45・5センチの大物を掛けた。
掛け替えがないのは、自然と一体になる釣りの時の安らぎと仲間。いま時期は季節を告げるウグイスのさえずりが心地いい。「仲間とのんびり昼を食べるのも楽しみ」。表情を緩めた。
釣り場は無料で開放しているものの、隣の釣り台の人や会員への声掛けを求めている。問い合わせは同会の袴田忠孝さん 携帯電話090(1646)8260。