「広島に来たからには大統領や首相という立場でなく、一人の人間として自分の良心の声を聴いてほしい」。被爆者として世界のリーダーらと対面し、国際会議でも体験を語ってきた小倉桂子さん(85)は、先進7カ国首脳会議(G7サミット)の開幕を前に、各国の首脳らに呼び掛ける。
広島を訪れる要人や観光客らに、英語で被爆体験を伝えてきた。自身が感じた恐怖など「目に見えないものを人に伝えることは難しい。相手の良心、想像力に委ねるしかない」と話す小倉さんは、「実体験を肌で感じてもらうのが私の役目だ」との思いから、40年以上にわたり活動を継続。昨年には来日した欧州連合(EU)のミシェル大統領とも面談した。
ウクライナ侵攻後、ロシアが核の威嚇を繰り返すたびに、背筋が凍るような思いをしているという。「原爆によって何が起こったか、実感として分かっているのか。怒りより何より、最初にぞっとした」と話す。
長年活動を続けても、核抑止力の必要性を信じる人は減らないと感じており、「なんと長い間、無力だったか」と絶望感に襲われることもある。それでも、広島サミットで核廃絶への第一歩が踏み出されることに期待する。「今こそG7が試される。どうせうまくいかないと言う人もいるが、可能性はある」と、首脳らの発信を注視する。
今でも目を閉じれば、1945年8月6日の広島のにおいや光景を鮮明に思い出せるという。「広島は自分の声を聴いて、どうすべきかを深く考え、一歩を踏み出す場所だ」と話す小倉さん。「長い間語ってきて、広島が自分を変えたという人にたくさん会ってきた。だから今回もそれを信じたい」