「記事、暗いものが多いですねェ」。取材先で、公務員氏に言われたことがある。もう40年も前の話だ。「明るい話題だけを選んで並べて」というわけではない。暗い話題が多くなりがちな世の中を少しずつ変えていくのが、報道の役目なのでは―という指摘だったと思う。思い出しながら、この10日間ほどの新聞やテレビの大きな話題を振り返ってみた。
殺人や強盗事件の、何と多いこと。東京で36歳の中学校教諭が今年2月に学校近くの63歳男性を殺した容疑で逮捕された。61歳の男は13歳の男子中学生を刺した。北海道でも、釧路市の37歳の男が隣町の39歳の女性教諭を刺して殺した。東京・銀座の高級時計店に押し入った強盗の4人は10代の後半。展示ケースを割り袋に時計を詰め込む仮面姿が夜の茶の間に映った。視聴者は一瞬で目撃者として試される立場に立たされてしまった。
これらのニュースの大きな黒い見出しと並んで、各地で頻発した大きな地震の記事や写真があった。ロシアのプーチン大統領の演説は相変わらず冷酷だった。高齢者の医療費負担の増加や電気料金の値上げの話題も重い―。人を殺しては駄目、盗んではいけない、だましてはならない―。そんな良識が吹き飛ばされたような暗さとおぞましさ。道は遠い。(水)