部屋の扉を開け、思わず足が止まった。汚いわけではない。が、明らかに以前とは違った。荒れていた。高齢の母が1人で暮らす施設で8日から居室への訪問が解禁になり、早速訪ねた時のことだ。
コロナ禍で外出禁止、部屋への訪問禁止、食事中の会話禁止―が続いてきた。最初の頃は、運動のためと建物の中を歩いていたらしいが、そのうち体を動かすのがおっくうになり、誰かとおしゃべりすることもなくなった。重症化リスクの高い入居者を管理する側の大変さも理解はできる。90歳をとうに超え、コロナがなくても足腰が弱り、脳が衰えるのは必然だったろうとも思う。しかし、誰かが訪ねてくることもない状態が約3年続いたことで、きちんとではなくても、見苦しくない程度に部屋を片付ける気力も失われたのかと思うと胸が詰まる。
高齢者への行動制限が、加齢に伴う心身の衰えに拍車をかける懸念は当初から指摘されていた。同じような高齢者はたくさんいるのではないかと思う。コロナ禍の3年がなかったように元に戻ることはないにしても、少しでも体力気力を取り戻すすべはないだろうか―。8日を境に感染対策を漫然と緩めていいわけではないが、経済だけでなく「人間」の回復の道も探りたいと思った。(吉)