【ソウル時事】岸田文雄首相は7日午後、韓国・ソウルの大統領府で尹錫悦大統領と会談し、関係正常化の推進で一致した。この後の共同記者会見で、首相は元徴用工問題に関して「心が痛む」と表明。尹氏は、韓国側が日本企業の賠償を肩代わりする方針は今後も不変との立場を示した。両首脳は東京電力福島第1原発への5月中の韓国視察団派遣を申し合わせた。 会談は少人数会合を含め約1時間45分行われた。
首相は会見で歴史認識に関し、「(3月の尹氏来日時に)歴代内閣の立場を引き継ぐと明確にした。この立場は今後も揺るがない」と強調。徴用工問題では「厳しい環境の下で多数の方々が大変苦しい、悲しい思いをしたことに心が痛む思いだ」と述べた。
尹氏は会談で「両国関係が良かった時代以上に、より良い時代をつくらなければならない」と指摘。歴史問題について「完全にけじめをつけない限り未来の協力に一歩も踏み出せないという考えから脱却しなければならない」と訴えた。会見では「どちらかが一方的に要求できる性質ではない」とも述べた。
日韓関係については双方が、今回の首相訪韓により「正常化の動きが軌道に乗った」との認識を示した。
徴用工問題は日韓間の最大の懸案だったが、3月の首脳会談に先立ち韓国政府が解決策を発表。首相は評価する考えを尹氏に伝え、関係正常化で合意した。ただ、首相は植民地支配への「痛切な反省とおわび」を明記した1998年の日韓共同宣言に触れたものの、直接の謝罪や反省を避けた。このため、日本側の「呼応」を求める声が韓国側に強く、首相の発言が焦点となっていた。
会談で両首脳は、福島原発処理水の海洋放出に関し、韓国の専門家による現場視察団の派遣で合意。首相は「韓国国内の懸念の声はよく認識している」と語った。視察団は今月23日に来日する予定。
核・ミサイル開発を続ける北朝鮮に対し、抑止力と対処力を強化する重要性で一致。軍事的威圧を強める中国を念頭に「自由で開かれたインド太平洋」実現に協力することを確認した。両国企業による半導体のサプライチェーン(供給網)構築など経済安全保障面の連携強化も申し合わせた。
また、今月の先進7カ国首脳会議(G7サミット)に合わせ、広島市の韓国人原爆犠牲者慰霊碑を共に訪れることを決めた。
首相の韓国訪問は就任後初めてで、3月に尹氏と合意した「シャトル外交」再開の第1弾。7日午前に日本をたち、ソウル入りした。日本の首相の訪韓は2018年2月の安倍晋三氏以来。