雨上がりのきらきらした日差しを浴びて吹く風を「光風(こうふう)」と呼ぶそうだ。そんな風が吹いたゴールデンウイーク(GW)。札幌で桜の花が散っている。統計史上最速で到着した反動で、早くも桜の季節が終わろうとしている。
札幌のシネコンで話題の映画「生きる LIVING」(オリバー・ハーマナス監督)を見た。原作は黒澤明監督作品の「生きる」。あの不朽の名作が70年の時を経て、イギリスを舞台によみがえった。脚本は黒澤作品の「メッセージに影響を受けて生きてきた」というノーベル賞作家のカズオ・イシグロが手掛けた。
妻に先立たれてから孤独で空虚な人生を送っていた役所に勤務する地方公務員。ある日、医者からがんを宣告され、余命半年であることを知る。人が死とどう向き合い、与えられた時間をどう尊重しながら生きるか。彼は役所でたらい回しにされてきた小さな公園建設に情熱を注ぐ。ビル・ナイの抑制された演技もいい。映画を見終わって感動で涙が流れた。
旧作は夜明けの公園のブランコで「ゴンドラの唄」を口ずさむシーンが印象的だが、新作のスコットランド民謡「ナナカマドの木」も心に染み入る。最期を知った後も人生は輝くことができる。そんな小さな希望も作品から流れる。(広)