私が主宰する奨学金制度「内山アジア教育基金」の用事で、支援者の方々と一緒にフィリピンに旅立つことになっている。そこで海外旅行のノウハウについて話をしましょう。
実はこのところ、コロナ禍の少し前から、私の旅のスタイルがちょっと変わってきたようだ。若い時分は移動手段ひとつを例にとっても、いかに安くあげるかで腐心していた。が、いつの頃からか現地での安全を考えて、暗い時間帯の移動は控えるようにしている。朝晩とも暗い中を出歩いていると、海外では危険な目に遭う可能性が10倍にもアップするという。
タクシーだって流しの場合は決して安全ではないようだ。よって流しの2倍から3倍も高くなるが、身元保証のあるホテルのタクシーを利用するように心がけている。
飛行機に乗る時も、日中のいい時間帯を、そしてより安全な航空会社を選ぶように心がけている。もちろん運賃は高くなるが、アメニティーと安全はお金で買うしかないようだ。今や世界中どこへ行っても、割安や格安の航空券が全盛だから、割高になるといってもたかがしれているだろう。
海外の空港でも、かつてなら、もっぱら安い流しのタクシーを拾っていた。が、今はその3倍ほどの料金を払っても、エアポートタクシーにしか乗らないようにしている。
具体的にいえば、若い頃は少しでも安いタクシーに乗るために、空港に到着後、わざわざ出発ロビー階に出て流しのタクシーをつかまえて市内に向かったものだ。だが、この年齢になると、現地人の誰もが私をひと目見て、少なくとも何10万円かの現金を持っていると思うはず。彼らの年収に匹敵、いや、それ以上の金額ということになるかもしれない。
よって、いつ流しのタクシー運転手が、つい魔が差してよからぬことを考えるかわかったものではない。やはり空港で流しのタクシーを拾うのは、10倍もの危険を冒すということになるようだ。
はっきりいって、もう若くはない。多少の小金持ちに見られても仕方がない年なのだろう。もはや体力もかつてのようではない。
よって海外では、安全とアメニティーはお金で買うしかない年代になってきたらしい。
「ウチヤマらしくもなく、命根性が汚くなってきたな」
口の悪い友人たちはそういって笑ってくれる。だが、命あっての物種ではないか。
★メモ 厚真町生まれ。苫小牧工業高等専門学校、慶應義塾大学卒。小説、随筆などで活躍中。「樹海旅団」など著書多数。「ナンミン・ロード」は映画化、「トウキョウ・バグ」は大藪春彦賞の最終候補。浅野温子主演の舞台「悪戦」では原作を書き、苫高専時代の同期生で脚本家・演出家の水谷龍二とコラボした。