毎日届く新聞を、どこから読み始めるだろう。自分は、おくやみ欄から読むようになって久しい。お世話になった人の名、親しかった人の名がないかを確かめて、あればあれこれを思い出しながらの一日が始まる。そういう年齢なのだ。
きのうの朝刊のおくやみ欄にMさんの名があった。住所も年齢も間違いない。40年ほど前に勤務した支局で取材などのお世話になった。確か、ご先祖は宮城の伊達藩の鍛冶職人だったとか。鍛え上げた道具の切れ味の素晴らしさを、お殿様が「明らかに珍し」とたたえたことからそれが姓になった―と名字の由来を教えていただいた。北海道の現在の伊達市付近に開拓入植した藩士に同行した。知り合った当時、すでに農林業の機械化が進みササを刈ったり土を起こす農具や道具は作業の前線から姿を消しつつあった。先祖伝来の技を生かして、縮尺判のくわ(鍬)などを作り、往時を知る人たちに提供し「懐かしい」と喜ばれていた。
もっといろいろなことを教えていただこうと思っていたが転勤が決まり、その後の40年は年賀状のやりとりだけになってしまった。具体的な付き合いも一つあった。転勤の時「使って」と手渡された鉄工所の名前の入った爪切り。おとといも爪を切ったばかりだった。合掌。(水)