年度替わりは何かと慌ただしく、心身の調子を崩しやすい時期でもある。「変化はあったけれど、念願の職に就けたといううれしい出来事だから大丈夫」と思う人もいるかもしれない。しかし、そういう場合こそ要注意なのだ。
アメリカの専門家ホームズらが「人生で起こるさまざまなできごと」と心身の病気との関連について研究したのはもう50年以上も前だが、いまだにその結果は有効とされている。それによると、多くの患者さんたちは病気を発症する前に「人生における重大な変化」を経験しているのだが、その変化とは決してマイナスのこと、ショックなこととは限らないというのだ。
ホームズらはその変化の尺度も作っている。1位は「配偶者の死」、2位は「離婚」、「親族の死」や「自分の病気やけが」あたりは「なるほど」と思うのだが、7位に「結婚」が出てくる。ほか14位は「新たな家族が増えること」、18位「転職」、25位はなんと「個人的な輝かしい成功」だ。普通に考えてうれしくてストレスも吹き飛びそうなことでも、それまでとは違った生活、環境になればそれだけで疲れや心労の原因になる。「変化」はそれが良い内容でも良くない内容でも、その人にとってはストレスであり、心身のエネルギーを奪うものなのだ。そして、それに気付かずに無理を続けると、本格的な心身の病気が起きてしまうこともある。
「待ちに待った新生活だ。頑張るぞ」と意気込んでいる人には、ときどき診察室でこう言葉を掛ける。「おめでとうございます。よかったですね。でも知らないうちに”電池切れ”にならないよう、なるべくペースダウン、そして週末はぜひ体を、心を緩めてゆっくりしてください」
張り切っているのに「ペースダウンして」と言われた人はちょっと不満げな顔をするが、何カ月か後には「先生が言った通り、思ったよりも体が疲れてるみたい。これ以上、飛ばし過ぎていたら倒れてたかも」と打ち明けてくれることもある。
スタートダッシュではなくて、スロースタート。4月から少しでも新しいことがある人は、ぜひ心掛けてみてはどうだろうか。