「なせば成る、なさねば成らぬ何事も」―。強い意志で前を切り開く大切さを説いたこのフレーズは、停滞と劣化の現代社会から脱却し、新時代へ歩みを進める上で見直されるべき言葉の一つだろうと思う。江戸時代後期の米沢藩主・上杉鷹山(ようざん)が残した名言だ。
明和4(1767)年、17歳で家督を継いだ際に待ち受けていたのは破綻寸前の藩財政。立て直しの覚悟を示すため、食事は一汁一菜、着物は地味な木綿と、率先して質素倹約に徹した。威張り散らかす藩士の行為も認めず、世襲の代官制度を廃止し、領民と共に田畑開墾にも汗を流させた。殖産興業の推進など経済施策を次々に断行し財政を再建。領民に向けるまなざしも優しく、助け合いを推奨し、障害者を支える自治組織まで築いた。疫病で苦しむ領民には即座に手当てを支給。高齢者には仕事の場を与え、敬う気風も育み、藩への信頼も回復させた。
すさまじい行動力と先見性で藩をよみがえらせたが、権力に固執せず、大名を退いたのは34歳の時。「藩主は人民のために存在する」と、若き名君はそう言い残した。こうした改革の気概を持つ政治家は今、どれほどいるのだろうか。誰のため、何のための政治か。統一地方選の中、改めて考えたい。(下)