4 脱炭素 相次ぐ先進的取り組み 中小企業からは戸惑いの声も

  • 地域から問う-2023統一地方選, 特集
  • 2023年3月16日
苫小牧CCUS・ゼロカーボン推進協議会の会合。脱炭素社会実現へ官民で機運を高める

  苫小牧市やその周辺で、2050年のカーボンニュートラル(CN、温室効果ガスの排出ゼロ)達成、脱炭素社会の実現に向けた動きが加速している。国による関連調査事業などが集中し、公募の採択を見据えた企業間連携も盛ん。12年度から展開している国の大規模プロジェクトで、二酸化炭素を分離、回収、貯蔵する「CCS」実証試験の「成功」で弾みがつき、関係者の間で「苫小牧はポテンシャルのある地域」が共通認識だ。

   日本CCS調査(JCCS、東京)など4社は、CCSに有効利用の「U」を加えた「CCUS」では世界初の試みとなる、液化CO2船舶長距離輸送の実証事業を24年度、苫小牧―京都で始めようと施設整備を進める。出光興産(東京)、北海道電力(札幌)、石油資源開発(東京)の3社はそのCCUSを30年度までに事業化するための共同研究に着手する予定だ。

   化石燃料を使うエネルギー拠点は、エネルギーシステムの変換を見据える。出光は再エネ電力による合成燃料製造を視野に入れ、北電は水を電気分解して生産する「グリーン水素」のサプライチェーン構築などをもくろむ。苫小牧東部地域を「CN実現のモデルケースに」との提言もあり、第三セクター苫東はGX(グリーントランスフォーメーション)などを新中期目標(23~25年度)に位置付ける方針だ。

   そんな先進的な取り組みが相次ぐ苫小牧だが、中小企業を中心に戸惑う声は根強く、市民にも浸透していない現状がある。昨年6~7月の市民アンケートでは、市が21年8月に行った「ゼロカーボンシティ」宣言を「知らない」と回答した市民が63%に達した。事業所アンケートでは、国のCO2排出削減目標について、回答事業所の73%が「達成できるかどうか、そもそも分からない」という状況だった。

   CN実現には、断熱保温の強化やLED(発光ダイオード)照明の導入、高効率エアコンへの更新など身近にできることも多い。道は「ゼロカーボン北海道」の実現を掲げ、温室効果ガスを30年度までに13年度対比48%削減、50年に実質ゼロを目標とし、事例紹介など情報発信に力を入れる。市は市長肝煎りの大作戦事業で23、24年度、ゼロカーボンをテーマに据えて予算配分も手厚くするなど、市民や企業の理解を最重視して機運を高める。

   一方、CNは非連続的な技術革新が必要で、新たなビジネスチャンスへの期待と、落ちこぼれる可能性との危機感は表裏一体。苫小牧商工会議所常務理事の末松仁さん(71)は「苫小牧には高い可能性がある」と強調しつつ「産業構造の変化などに自助努力だけでは対応できない中小企業が出てくる。商議所としても手を尽くしていくが、寄り添った取り組みがこれからも必要」と訴える。

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